掌編第七回 ゴールデンアーチ(制限800字〜2000字)

 *今回は場所指定です。

  場所は「マクドナルド」


 突然だが、僕のクラスメイトに織原和崇おりはらひろたかと言う奴がいる。

 なぜそんな話をするかと言うと、こいつが変な奴なんだ。何と言うか中二病に罹患してそれ以来、拗らせたままなのだ。当然クラス内で浮いている。他の連中は透明人間のように扱っている。

 なぜ、僕が話題にあげたか。それはだれかに聞いて欲しかったからなんだ。

 それは、高校の入学式の後、新クラスでわくわくしながら、僕はクラスメイトたちを観察していた。

 その時、織原おりはらが目に付いた。

 自席で雑誌を広げて真剣に読んでいる。かと言って自分の世界に閉じこもっている訳ではなく、脇を通りかかる連中を呼び止めてはその雑誌を見せていた。ほとんどの連中は無視するか、雑誌を見せられ直ぐに逃げるように立ち去っている。

 興味を持った僕が近づくと織原おりはらは僕を向き雑誌を広げ突然話しかけてきた。その雑誌は不思議系の雑誌だった。


「高次元人の侵略がもうすぐ始まるぞ。俺達3次元人は侵略を防ぐ為に力を合わせる必要があるんだ」


 織原おりはらは初見の僕に親しい友人のように突然話題を始める。僕はその時は『へんな奴だな』位にしか思っていなかった。僕は元々変わったモノ好きで中学の時もクラスの変わり者に話しかけては無視されていたんだ。そんな奴の一種と思ったので、話に乗ってみた。


 後で後悔するのだがその時はそんなことは判る筈もない。


「侵略されるとどうなるんだ? 次元を越えて侵略するぐらい科学力があるなら、僕ら一般人はその恩恵にあずかれるんじゃないか?」


 織原は意外そうな顔になる。そんな返答をする奴なんておらず、馬鹿にするか、証拠を出せと言うか、無視するかだったらしい。


「そうなんだよ。科学力では敵わないから、奴らの侵略拠点を見つけて潰すんだ」


 話が微妙にずれるが、それを無視して会話を続けた。それもまずかった。すっかり気に入られる事になった。


「侵略拠点は判るのか?」

「おう、俺はこの本の過去5年間の記事の内容を分析して裏を取った。それはここだ」


 という訳で織原に引き摺られるように連れて来られたのがここ、最寄りのマクドナルド日本一号店だ。


「高次元人が次元転移を行う場合には空間ゲートを使う」

「へえ、そうなんだ。それでそれがここにあると?」

「そうだ。ところでオタク名前は? 俺は織原和崇おりはらひろたか、ヒーローと呼んでくれ」


 これには引いて名前を名乗るので精いっぱいになる。


「……僕は、諸葛しょかつ博之ひろゆき

「そうか、諸葛しょかつ諸葛もろかずらとも読み賀茂神社の祭りに使われる雅な名字だな。それに博之はもろかずらが広く世界に植え広がる様子を表す。なかなか良い名だ」

「あ、ありがとう。そうなんだ」


 自分でも名前の由来を知らなかったよ。


「それで、諸葛氏の質問についてだが。マクドナルドのマークは何だか知っているか?」


 こいつ、氏呼びときたよ。


「ピエロ?」

「いや違う。マクドナルドの店やロゴに必ずくっついている黄色の奴だ」


 マクドナルドといえばこれしかないよな。


「えーっと。黄色のMのマークかな?」

「おしい。あれはMではない」

「なんだって。どう見てもマクドナルドのMだろう」

「ふふん。ほとんどの奴はみんなそう思っている。だがあれは、金色のふたつのアーチがくっついたものだ。

 創業者がこだわった1号店にはそのアーチがふたつ設えられていたんだ。だが、よく考え見てくれ。単なるハンバーガーレストランに金色のアーチだぞ。変だろう。俺はあれこそが次元転移装置のゲートだと見抜いた。だから日本の1号店には絶対にあれがどこかに埋め込まれている」


 なぜ断定? 織原はさっさとバーガーの単品を食ってしまうと、ダブルバーガーセットを前にした僕の肩越しに店内を見回している。


「高次元人が、侵略してくるのはもうすぐのはずだ。早く装置を見つけて破壊しなければ、大変なことになるぞ」

「ちょっと、食べ終わるまで待ってくれ」


 絶対この後、店を追い出されるいやな予感がしたので、急いで食べる。


「仕方ない奴だ。大事の前の小事だが、仲間の我侭に応えるのもヒーローの器だしな」


 僕はヒーローの仲間になっちまった。

 最後のひと欠片かけらをコーラで流し込む。歩き回っていた織原が壁のM字型オブジェを指でぐりぐりし始めた。


「うむ。これが怪しい」


 オブジェをぐりぐりと引っ張って剥がそうとする。


「織原クンそれはまずいだろ」

「ヒーローな」


 僕の方を振り向く彼の指が明るい黄色に光る。光はドンドン強くなり壁に二つの大きなゴールデンアーチが浮き上がった。それこそ人が通れるくらいの大きさだ。


「これはまずい、間に合わなかったか。みんな逃げろ!」


 織原が壁の前の席の女子中学生を抱えて走り出した。光はドンドン強くなる。

 女の子は脇に抱えられてキャーキャー騒いでいる。店内から次々に利用客が転がり出ていく。店から飛び出したところで店内が金色の光で溢れた。

 すわ、光の中から体にぴったり合って継ぎ目のない銀色の服を着込んだ男女が歩き出てくる。


 織原が叫ぶ。


「なんてこった。未来人かよ!」

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