(3)
30分後 市内某所、通称「集会所B」
『……で、どう思う?』
『どう思う、って?』
集会所に訪れたタイミングで響いた声に、
『トボけんじゃないわよ。マコトはアンタにサイン出してたでしょーが。あの女もバリバリ怪しかったわよ。っていうか何かしらね、悪魔の匂いみたいなのが一瞬したんだけどぱったり消えたのよ。なんなのかしらねアレ』
『まーね。怪しいところは全部おじさんが調べてくれるからいいんじゃない? マリーとかいう子はそのうち見つかるでしょ』
グリマルキンは先程のウラベとかいう女にご執心だ。
そして、出ていくときに定時連絡の打ち合わせとか気遣いの言葉とか、そういう話ひとつなかったのは『お互いに』忙しくなるから逐次会話する暇も惜しいという意思表示なのかもしれない。
「ここが駄目なら次かぁ、何処にいるのかねマリーちゃあん……」
「呼んだかしら? 知らない子ねぇ」
ひとまず、集会所AとBは空振り。Cも不在だともう隣町だ。午前中にミケ以外の猫又探しで巡回したのにまた行くのかと思うと骨が折れるなあと考えた辺りで、なんだかこう、場末のバーで聞きそうな声色が聞こえた気がした。
「そっかーいないかー、じゃあ次、いや違う誰よ今の声」
『眼の前よ。アレよアレ。多分アレ探し猫よ』
「鈍いわねえ。ちゃんと話しかけてるじゃない、アナタ達の言葉で。無視はないんじゃなぁい?」
うん、間違いない。人間の言葉を解しているが、間違いなくマリーの特徴全部乗せだ。ちゃんと近付いたら腹見せして例の毛並みも見せてくれた。えっ優しい。でも尻尾が間違いなく2本なんだよね。猫又じゃん?
「……え、マリー? ホットエピック社に飼われてるマリーちゃん?」
「そのホットなんとか社に飼われてるって言い方気に食わないけど多分私のことよねぇ。どんな話を聞かされたのかわからないけど。質問に答えた分、私の質問も答えてくれないかしらぁ?」
「何だか思ってたのと違うけど、まーいっか。聞いたげる」
なんだか歯に物の詰まった言い回しに感じるが、目の前の猫又が探し猫のうち一匹であることは確定した。とても喜ばしいことだと思ったので連れ帰ってカリカリをあげよう。だってミケはいつものノリなら数日の余裕があるし。あの
「この辺に住んでる猫又の『ミケ』って知ってる? っていうか私に驚かないってことは知り合いよね。アナタよね、グリマルキンの子」
「なんて?」
家に帰れると思ったんだけどなあ。
「だから、グリマルキン憑き探偵助手で姪御のレイちゃんって子。ミケから話は聞いてるわ。タスケテクレーって」
「…………ちょっと詳しく聞いていい?」
早く帰って不定期配信のモキュメンタリーホラーを新作込みでイッキ見する予定だったんだけどなぁー!!
同時刻帯 F県警中央警察署
「
「織絵さんですね、只今確認取りますのでお待ち下さい。……ところで、今回はあんまり荒事になりませんよね?」
「私、まだ何も言ってないじゃないですか……」
卜部氏を送り出してから警察に向かい、まず何をするかといえば交通規制課でホットエピック社の道路使用許可を調べる、のでは少し遠回りだ。調べたいことが多い、そして悪魔絡みの場合は祓魔対策課からの要請と言う形のほうが早いのである。因みにこれは裏道ではなく、先代失踪に伴う事務所引継ぎの折に先方から提案された手順である。
市街地単位でなにか起きる時は警察との連携が必須なのはDPⅠの時から変わっていないので、この辺の付き合いは特に大事なのである。あるが、信用はされていないらしい。
「大丈夫です、黒田警部補が残っておられました。課の会議室に来てほしいと」
「ありがとうございます。あ、規制課長にもよろしくお伝えください」
「……本当に大丈夫なんですよね?!」
全く信用されていない。酷い話である。
「織絵ー、あんま受付ちゃんビビらせんじゃない。アポとってきた時涙声だったぞ」
「してませんよそんな事。私が対策課に顔出しただけで署が爆発する訳でもなし」
「お前が一枚噛むような事件は大抵被害がエグいんだよ」
果たして、黒田警部補から挨拶代わりに酷い言いがかりを受けた私であったが反論しようが無いのが痛い。痛いついでに今回も穏やかには終わらない予想がある。
「黒田さん、3つほど裏を取ってほしいことがありまして」
「なんだ、
「多分」
「
「……いやあ、構成員残党じゃないと思いますけど噛んでそうですね。『合同会社ホットエピック』って会社に在籍している、または在籍していた人間に憑魔者がいないかの確認と、市内でのここ一週間のGPSログとレーダー反応、それから同じ期間内の交通使用許可」
そう、今回はこれが目的である。
GPSログと憑魔者レーダーの反応の有無は対策課に通じていないと手に入らない。というか只でさえ膨大な量なのでアポ無しで来た私は畜生の類なのは確か。申請書は……そんなでもないだろう。道路工事か宣伝カーか政治家ぐらいのものだろうし。
あと回るのはレンタルルームの管理会社、そしてイベント開催は市の管理施設だが、閉庁時間を過ぎたので明日になる。
多すぎる。多すぎるが、開催前に終わらないと多分大変なことになるのは目に見えているのでタチが悪い。でも、そんな事を考える連中が護衛の一人ふたり用意してない訳がない……。
「おい織絵、携帯。話はわかったからでろよ」
「失敬」
警部補に促され通話モードにすると、スピーカーホンでもないのに耳をつんざくくらいの声が響いた。
「おじさん? ちょっとすぐ帰ってこれない?」
「もう少しお前は声量抑える努力をしような」
「それどころじゃないの! ミケが捕まってる!!」
はい。
電話口の麗がいきなり爆弾発言を放り込んできました。
捕まってるって、誰に? という馬鹿な話は置いておくとしよう。誰から聞いた? なんていう話もナシだ。
「その調子だとマリーは見つかったんだな? ウチで保護するから一度戻ってこい。事務所の鍵はあるな? 私はもう少し話を詰めてから即帰る」
即座に返した言葉に満足したのか、電話はほどなくして切れた。嵐のような、というか二言だけなので旋風だが、そんなノリで事態がいきなり動いた。
麗はマリーを見つけた。明確な証拠はなかろうが、ミケが捕まっていてその情報をマリーが抱えていた。
……完全にクロである。あった。
「なんだ、姪っ子ちゃんか? めちゃくちゃ大声出すじゃん。なんて?」
「すいません警部補。多分、今回の話もクロっぽいです」
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