第37話 思い出話
食器の音が食堂に響く。
向こう側の席に座ってオムライスを頬張っている
食べ始める前に私は「ケチャップで何かを描いてほしい?」と訊いたけど、彼女は空腹感に耐えられなかったのか、首を左右に振った。
ださいと思ったから私は自分のオムライスに何も描かなかった。
「
感想を聞かせてくれないかと思って、私は
「あの、いかがだったの?」
「
「うまいだけに……?」
「そう、うまいだけに~」
ーー
笑ったほうがいいのかな……? いや、
「やっぱり冗談がウケなかったわね……」
そして、店内が静まり返った。
しばらくの間、私たちは皿に
少し気持ち悪くなったので、私は話題を切り出そうとした。
「あのね」
「……ん?」
考え込んでいたのか、
「故・
今まではその質問を訊くのを遠慮していたけど、気になりすぎて訊きざるを得なかった。
「彼女はね……。正直、問題児と言っても過言ではない。最後まで問題を起こしたばかりなのね……」
ーー問題児? どんな問題を……?
いや、考え込むより質問を口に出したほうがいい。
「……どんな問題を起こしてきたの?」
「いろいろだね。お客様の迎えを忘れたり、仕事で明らかに退屈した表情をしたりして……けど、文句は言えない。結局のところ、彼女は最後まで仕事をしてたんだ。たくさんの願い事を叶えて、たくさんの人を幸せにした。本当に彼女のおかげでここまで来られたんだよ」
「だから……だからわからないの。どうして……。どうして彼女は死ななければならなかったのか……?」
そして、一つ一つ涙が雨のようにぽつりとこぼれた。
ーー
もちろん泣いても当然だけど、
その泣き声が初めて耳に入ると、私は面食らった。
やっぱりこの質問をしたのは間違いだった。
「ごめん、
「いえ、
言いながら、涙がどんどん溢れ出す。
私は
視界を生み尽くしている空色の髪の毛が海のように見えた。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
四時間後。
私たちはすでにワンピースに着替えて、ゆめゐ喫茶の戸締りをしているところ。
泥棒が来ないように、
「さて、そろそろ行かないとね」
と、
私は鍵をポケットから取り出して、厨房のドアの鍵穴に鍵を挿した。すると、ガラガラと音が店内に響く。
「あのね
故・希の話題はこれ以上振りたくないけど、一応
「わたくしのことを心配しないで。きっとなんとかなるから」
言って、
メイド服ではなく、黒いワンピースを着ている
私は黒髪ロングだから、髪の色が引き出されるとは思わない。むしろ、黒い服を着ると髪の艶しか見えない。
「それでは………」
何を言えばいいのかわからなくて、私は口をつぐんでしまった。
「それでは……?」
「……何でもない。とにかく、行こうね」
私は入り口に目をやって、目配せするかのように
「そう。行くわね」
頷いて、私は店を出て行った。
太陽が早めに沈んでいて、
彼女は鍵を鍵穴に挿して回す。
鍵がかかったのを確認してから、私たちは橙色に染めた空を見上げた。
「
「そうね。そんなに律儀で優しい人は地獄に堕ちるわけがないから」
一応慰めるつもりで言ったけど、私は心からその言葉を信じていた。
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