第22話 臨時休業
いよいよライブの日が来た。
意外なことに、
昨日、私は店先の掲示板に『臨時休業』の張り紙を貼って、戸締りしておいた。
そして、今日ーー
私はいつも通り通勤して、今は集合場所ーーつまりゆめゐ喫茶の店先で待っている。
休みなので、メイド服もOL服も着ていない。今日は珍しく私服を着ているんだ。
髪はいつも通り下ろしたままだけど、ジャージを着ていて、タイツは履いていない。
そろそろライブが始まるのに、
うろついたり髪をいじったりしながら、頻繁に腕時計に視線を落とした。
彼女は今一体何をしているのか……。
化粧している? それともまだ着替えている?
なんにせよ、本当にむかつく。彼女を怒鳴りつけたい。
もう一度腕時計を見ると、ライブが始まるところだと気づいた。
もちろん一人で行ってもいいけど、
ーーまさか、この期に及んで欠席するつもりなのか?
しかし、彼女は
諦めようかと思った途端に、誰かが私に声をかけてきた。
「
腕時計から顔を上げると、
私は唇を尖らせて、ジト目で彼女をにらみつけた。
「何をしてたんだよ!! もう間に合わないでしょ!」
「あら、今日は態度がかなり無礼だね」
言って、
無礼とはいえ、彼女はよほど怒っていないだろう。
とにかく、誰かを怒鳴りつけるのは意外と楽しい。私はOLだったころ、どうしてもくずの上司を怒鳴りつけたかったんだ。しかし、そんなことをしたら必ずクビになるから我慢した。
「休みだもん! 今日だけ
「そうか。まあ、そんな
言って、彼女は私の頭から爪先まで視線を落とした。
「そういえば、今私服を着ているよね。本当に似合うと思うよ」
どんな服を着ても、
「ありがとうございます」
私は思わず仕事モードに戻ってしまって、そう言ってから一礼した。
私服の話に気を取られて、ライブのことをすっかり忘れてしまった。
今は何時なのか、と私は腕時計に視線を落とした。
ーーやばい。
「と、とにかく雑談する暇がないよ。ライブの会場に早く行かなきゃ!」
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
幕の向こう側で、衣装に着替え終えた私と
「ね、大丈夫ですよ」
緊張している私に、
私は深呼吸をして、気を取り直した。路上ライブの時は全然緊張していないのに、なぜか今はすごいプレッシャーを感じている。
「うん。ありがとう、
そう答えて、私は少し落ち着いた。
ドアの開ける音がして、会場に重なる足音が聞こえてきた。音からすると、かなりの人数が来てくれたようだ。
まあ、満席だから当然だろう。そういえば、今まで青いドリーマーのライブは満席になったことがなかったっけ。
とにかく、そろそろ一曲目を歌う時間だ。
その前に、私は
「じゃ、最高のライブにしましょうね」
「きっと大成功だと思います!」
言って、私たちは重なった手を上げた。
「さあ、行きましょう! 次の
幕が開くと、会場から眩しい光が私たちを照らす。
目が
しかし目が慣れると、視界に入ったのは空席のない会場だった。しかも、最前列の席に座っているのはゆめゐ喫茶の店長と
私はぽかんと口を開けた。
「ほら、大丈夫だって言いましたよね?」
ーー本当に満席になったんだ!
願い事を叶えるメイド喫茶。
正直、そんな店があるなんて信じられなかった。しかし、身をもって体験したからには、私は信じている。
願い事とは夢だけではなく、本当に叶えるということをーー
「皆様、青いドリーマーのライブに来ていただいて本当にありがとうございます!」
その言葉に観客が歓声を上げた。
「最近、青いドリーマーの将来が暗そうでした。お金があまりなくて、このライブが最後かなぁー、と私はずっと悩んでました。一人では何も変わらないだろうと思った途端、新しいメンバーが入ってくれました。彼女のおかげで、私はもう一度気合を入れて頑張ることができたんです!」
そう言うと同時に、
「これはまだ序の口です! 本日皆さんが来てくれたおかげで青いドリーマーはきっと存続できると思います。これからはもっともっとライブしたいんですので、お見逃しなく!」
と、
「それでは、一曲目を聴いてください……!」
「「新たなドリーマーズ!」」
言って、私たちは
目配せをすると、会場が暗くなってきて、音楽が流れ始めた……。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
「あおいちゃん! あおいちゃん! あおいちゃん!」
最後の曲が終わると、皆が私のあだ名を唱和する。
私は埋め尽くした客席を見渡して、すごく嬉しくなった。満席のライブはこういう感じなんだ、と初めて実感した。
ファンの人波が声援を送って、皆が喜んでいる。
こんな楽しい時間を終わらせたくなかった。しかし、そろそろ別れを告げる時間だとわかっている。
皆が解散したら、私は
「ということで全曲を披露したので、終わりの時間が来ました……。皆の応援のおかげで今日はとっても楽しかったです!」
と、
「「本日は本当に、ありがとうございました!」」
言って、私と
皆は最後の歓声を上げて、解散し始める。
そして、ゆめゐ喫茶の二人が近づいてきた。
「お疲れ様でした」
そう言ったのは店長だった。
「さ、最高でしたわ! 次のライブはいつですか?」
と、
「あの、まだわかりませんけど……」
「あ、すみません。調子に乗りすぎたんですね」
その言葉に私はくすくすと笑った。
「いやいや、大丈夫ですよ。そんなにハマってくれるファンがいるのはとっても嬉しいです」
「それでは、明日は仕事なので……」
と、店長はコホンと咳払いをして言った。
彼女は空色の髪を場内に吹き込んだ隙間風になびかせる。振り向かず、
私と
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