第7話 やればできる
校門をくぐると、学校のチャイムが聞こえてきた。
まだ校内に入っていないのに、予鈴の甲高い音が周りに響き渡るほど大きい。
そろそろホームルームが始まる。
あたしは
昇降口で靴を履き替えてから、一刻も早く教室に向かった。
廊下を走っている間、靴が大きな音を立てる。
足が
喘ぎながら、後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、
そして、本鈴が鳴り出した。
「ギリ……ギリ……セーフだね」
「うん……よかった……」
深呼吸しながら、あたしたちは教室に入った。
あたしは恋文をポケットに入れておいて、覚悟を決めた。
突然、
『きっと上手くいくよね!』
ーーそうね。今度こそ、あたしは負けない。ま、負けても終わりじゃないけど……。
教室に入ってから室内を見回した。
幸い、今学期の席替えのおかげで、あたしの席が彼の隣にある。
距離が短いほうが恋文を手渡しやすい。それに、皆が話し合ったりふざけたりしているからあたしの存在にまだ気づいていない。
できるだけこっそりと席にたどり着くと、学級担任が教室に入ってきた。
「皆、おはようございます!」
号令をしてから、皆が同時に席につき、黙り込んだ。
学級担任の話を聞き流しながら、あたしは恋文を手渡すチャンスをうかがった。
教室を見回すと、皆の視線が学級担任のほうに注がれている。
ーーよし。
あたしはポケットから恋文を取り出して、机の下に腕を伸ばした。
念のため、
こんなチャンスは二度と来ない。だから……。
あたしは紙飛行機のように空を飛んでいる恋文を目で追う。少し揺れたけど、計画通りに行きそう。数秒後、恋文が彼のリュックの真ん中に落ちて無事に着陸した。
それを見ると、あたしは頭の中でガッツポーズをする。
ーーやった! 本当にできた!! あたし、天才じゃないか?
離着陸が大成功。あたしは安堵の溜息を吐いた。
顔を上げると、学級担任が話し終わったことに気がついた。なんの話だったのかな……?
まあ、後で誰かに訊けばわかるだろう。
計画の大成功で気持ちが高ぶって、あたしはいても立ってもいられなかった。
机の下で脚をバタバタさせ始めて、ドヤ顔をする。
脚に力を込めすぎたのか、右足の靴が床に落ちて意外と大きな音を立てた。
その音に、みんなが一斉にあたしに注目する。
「ふふっ、
あたしは首を傾げた。
「え? どういうこと?」
多分さっきの話のことだろう。ぼーっとするのは仇となりそう……。
「あれ、ちゃんと聞いてなかった? ダメだよー」
そう言ったのはクスクスと笑いながら隅っこの席に座っている男子高生。
彼の名前は覚えていなくて、話したこともない。
そしてみんなが爆笑して、学級担任がジト目であたしをにらみつけた。
「そうですか、
その声には怒りの響きを感じて、あたしは思わず居住まいを正した。
こうなるとどんなに言い訳しても無駄だろう。心から謝ることしかできない。
あたしは席から立ち上がって、頭を下げた。
「す、すみません。ちゃんと聞いてませんでした」
あたしが言うと、学級担任は眉をひそめる。
でも叱かれるかと思いきや、チャイムがもう一度鳴り出した。ここぞというタイミングであたしを救ってくれたんだ。
あたしは安堵の溜息を吐いた。今日は運が良すぎる。
「それでは、今日のホームルームは終わりです。でも
「はい?」
「明日はちゃんと聞きなさいよ」
「すみません。ちゃんと聞きます」
この事件はきっとあたしの評判を下げる。
学級担任に話しかけられる間、誰一人もあたしを
あたしは人気者とはいえ味方がいないようだ。
そもそも人気者になったのは美貌のおかげなのかな?
それなら、あたしは人気者じゃなくてもいい。あたしを庇おうともせず、ゾンビのようにさまようくらいなら、取り巻きはいないほうがマシだろう。
ーーやっぱり、このクラスは厳しすぎるんじゃないか?
一限の準備をしながら、あたしは
あたしは観念したように吐息を漏らして、教科書を取り出した。
少なくとも、ホームルームがやっと終わった。無事にとは言えないけど……。
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