人間に進化した動物

浜辺士郎

人間に進化した動物

人間以外お断り。

そう張り紙がしてあるレストランも珍しくない。もし張り紙がないからと言って店内に入ろうものなら、「豚人間はご遠慮いただいています。少なくとも豚足ではカトラリーもうまく扱えないでしょうし、ほかのお局様のお迷惑です。どうしてもとおっしゃられるのなら食器を洗った水くらいならお分けできますよ」。となる。また食べるものだけでなくい住まうための住居を探すのも困難だった。アパートを借りられず、ホームレスとなり人間たちから猟銃で駆逐されるのがオチだった。

しかしこの星は多様性と進化の惑星。緑と青で形作られている。野に戦ぐ草木、それを可愛く両断するチロチロと流れる川。周辺に息づく生物は母の愛情より深い造形で調和しており芸術の塊だった。高度に発達した身体は機能性だけでなく美しさも垣間見ることができる。

この星唯一の発展した都市に住む青年がいた。名前はアド。黒い髪の毛、褐色の肌、身長は170cmほどで顔はまあまあの美少年であった。これといった趣味は持ち合わせていなかったが、飛び疲れた鳥を介抱してやったり、絶滅が危惧される昆虫の資料を作成するといったボランティアを行っていた。ボランティアへは薄汚い思惑や、功名心からではなく心の底からの善意で参加しているのだ。そんなある時、彼は野鳥の観察を行っていた。そこへフラフラと見慣れない格好の男が近寄ってきた。男は安曇の目の前でばたりと倒れ込んだ。男は全身から汗を吹き出し、四肢が赤白くかぶれていた。アドはこの症状に知見を持っていた。迅速かつ正確な手腕により男は安静を取り戻し、数時間後に寛解した。

「見ず知らずの私を助けていただき感謝する。私はレナリン。町外れを探索していたら道に迷ってしまい、仲間とも逸れてしまいました。運悪く、都市に帰ることができなかったところを昆虫の大群に出くわしてしまいまして」

男は横になったまま、口を開いた。

「それは大変でしたね。あと少し手当てが遅れていると致命的でした。しかしもう安心して大丈夫でしょう。ところで見慣れない格好ですがどこかの星からいらっしゃったのですか?」

アドは微笑みながら問いかける。彼の黒髪から抜ける恒星の光は木漏れ日の様だった。

「私はセロットニン号の惑星間旅行でこの星に来ました。この星を文化なども見学したかったのですが、それどころではなくなってしまった」

「安心してください。私が街までお送りしますよ。よかったら都市を案内もいたしますので遠慮なさらず」

レナリンはアドのはにかみで心を許してしまった。

「ありがとうございます。そうしていただけると心からありがたい」

それからアドの案内で森を脱出、都市へ見事に帰り着いた。

二人はこの星の見学に値する文化を見て回った。自然を祀る石像が多数あり、全て人間以外を象っていた。

「この星は生物の多様性を重じています。ここの生物は人間と共存して独自の進化を遂げてきました。私たちは彼らの進化にあまり関与するべきでないと考えているため、この星の生物は自然の摂理でなるべくして形作られています」

アドはすらすらと話す。レナリンも相槌は欠かさなかった。

「面白いのはこの星にいる生物には私たち人間に近い見た目をしたものがいることなのです。例えば蝶や馬、豚など種類は多岐に渡ります。人間の姿の蝶は最近まで妖精やUMAだと言われていました。馬は、半身が人間で、もう半身が馬という見た目で熱狂的なファンがいます」

そこまで話すとアドは少し息をついた。レナリンにはアドの表情が憂いている様に見えた。

「お疲れの様です。どこかで休みましょうか。先ほどの礼もしたいですし、そのレストランで食事を」

アドは社交辞令で断るポーズを取ったが、すぐに折れ、レストランへと入った。レナリンは豚料理を、アドはサラダを注文した。良質な油と共に、肉まで滑り落ちそうなほど柔かな豚肉だった。特製ソースも芳ばしく、豚肉によく合う。レナリンは夢中になってそれを頬張った。アドは押し黙ったままだ。

「浮かない表情ですね。何かありましたか」

「はい実は先ほどの、人間に擬態している生物の話の続きがあります」

アドは躊躇いながらもレナリンに話し出した。

「この星の生物は人間に擬態する事で生き残ってきたものが多数います。それらは知能も人間に限りなく近づいているため、この都市でも共存ができます。しかし、この星は生物の進化に人間は関与しないことにしているため特別な扱いができません。我々は食べないと生きていけないので仕方なく豚や牛を屠殺しているのです。その屠殺が問題で、人道的でない場合が多いのです。あなたが食べているその肉もおそらく豚人間を虐殺した結果の産物でしょう」

そんな話を聞いているとなんだか胃がムカムカしてきた。レナリンは胃がむず痒くなり、トイレへと駆け込んだ。

レナリンが戻ってくるとアドは申し訳なさそうな表情をしていた。

「すみません、せっかくお食事中でしたのに」

「いや、話を促したのは私だ。しかしその話が本当だとしたら世に公表した方がいい」

アドは苦い表情をしてこういう

「はい、そのつもりで本日屠殺場へ証拠を掴みに行く予定なのです。よかったら一緒に来ていただけませんか。このことを別の星にも伝えて欲しいのです」

レナリンはもちろんといった返事をし、レストランを後にする。そして屠殺場へと向かったのだった。

そこは灰色の壁に囲まれていた。中からは呻く声や慟哭が絶え間なく鳴り響いていた。

アドは近くにあった木によじ登り、中を動画に収める。豚人間はスタンガンにより無理やりに歩かされていた。それでも歩かないものには屠殺場のスタッフが体罰を加えている。アドは明らかに憤慨しつつも、冷静に自らの役割に徹していた。

しかし抑えきれないものが彼の身体を乗っ取り、あろうことか木から塀へと飛び移り、屠殺場内部への侵入を試みたのだった。これにはレナリンすらも不安の種が芽生えた。

「アド!」

レナリンはレーザーの様に叫んだが、もはやアドには受け入れられなかった。

アドは内部を突き進んだ。強力な電流で気を失わせる現場、解体する風景、屠殺スタッフによる仁義なき振舞い。アドは全てを修めて、無事戻ってきた。レナリンは私には関係ないと繰り返し唱えていたが、アドが帰って来ると心の底から安堵した。

一方アドは、先ほどとは打って変わり、いつもの様な爽やかな表情を魅せていた。

「証拠は手に入れました。実は私はこの都市で起きている差別的な事象を広めたいと考えていたのです。ボランティア仲間も署名活動や募金、国への訴えを行っていますがいまいち反応がよくあrません絵師t 、しかし今回の証拠を突き付ければ 否応なくこの都市の差別は減ることでしょう。一緒に来ていただいて感謝しております」

すると運良くレナリンのほかの仲間がその屠殺場に来ていた。一緒にアドのボランティア仲間と思われる人物に案内されて来たという。そしてレナリンは感動の再開を果たしたのだった。セロットニン号の出発が迫っているらしく、レナリンとその仲間は急いで宇宙船へと帰っていったのだった。別れ際にレナリンはアドから頼みを受けていた。レナリンの故郷にもこの星の実態を広めて欲しい、とのことだった。レナリンは承諾し、二人は惑星間ナンバーを交換した。

それから数ヶ月がたった。レナリンは自らの星で生活を行なっていた。ある時レナリンの惑星間ナンバーに手紙が来ていた。それはアドからの手紙だった。手紙と言っても電子的に送信した文字だ。レナリンは端末でそれを読んだ。手紙によると、アドはあれから都会で起こっている現状を証拠付きで国へ報告したらしい。それが見事に役人の心を動かし何と豚人間への差別が見違えるほど減ったという。アドはその惑星でヒーローの様な象徴的な立場になってしまって、少し戸惑っているとのことだった。レナリンはアドラしなと感じながらも読み進めた。屠殺場で起こっていたことは文明国家としてあるまじき行為だ。アドは国家に対して発言力が高まったことによって自分で屠殺場スタッフの意向を決めたと書いてあった。そしてアドはこうも記していた。

「私は屠殺スタッフの行いを見過ごすことはできなかった。これからは彼らに報いを受けてもらいたいと思っているんだ。私は彼らの人権を廃止しました。彼らは路上で生活し、通行人に殴られ、物乞いを行う様になりました。これも自業自得というものですね」

そこでアドの手紙は終わっていた。レナリンは言いようのない、諦観した気持ちになった。

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