第4話

「フフフ」


 綾香は愛らしい顔に恥ずかしそうに笑顔を浮かべて笑った。黎人が「手術が上手くいって、この施設を出たら、二人で思いっきりデートをしよう」と言ってくれたからだ。


 黎人は綾香が寝ているベッドの布団の上に手を伸ばすと、超能力で車の玩具おもちゃを動かし、それを綾香の視界の右に左にと走らせた。これは二人が乗っている車だと言う。まずは何処そこの港で、次は遊園地、その次は人気のデートスポットの展望タワーだと案内していく。綾香は頬を膨らませて「駅ビルにある映画館がいいな」とか、「郊外のお洒落なレストランに行こうよ」と言った。黎人は「はいはい」と超能力で車の玩具を方向転換させる。綾香は布団の上に両手を上げて、ハンドルを回す仕草をしながら次は何処とか、その次は何処だと言って、空想のデートを楽しんだ。黎人はそんな綾香の笑顔を見ているのが好きだった。


 高校を卒業したら運転免許を取得して、本物の車に綾香を乗せて一緒にドライブしたい、黎人は心底そう思っていた。綾香に病を克服して元気になって欲しいと本当に思っていたし、そのためには自分が有している超能力でも時間でも体力でも、何でも提供しようと思っていた。だから、綾香が意識を失って集中治療室に運ばれ面会できなくなってからも、黎人は毎日のように彼女のいる病棟を訪れ、窓越しに、横たわっている彼女にエールを送った。

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