オタクくん、降りかかる火の粉を払う。
梅緒連寸
飛び火
そして浜万の事も。
その浜万はある時忽然と姿を消した。深い事情を知らされる事はなかったが、幼くして過酷な任務にも慣れた伊湖は里の忍の幹部たちからそれとなく話を聞き出していった。
浜万は任務中に死んだのだという。遺体は誰にも知られず同輩に埋葬されたと。
しかし伊湖はこの話をそのまま聞き入れるつもりはなかった。浜万を慕うようになってからは密かに鍛錬の様子や日頃過ごしている姿を遠巻きに眺めていた。
浜万という男には目つきに少しの冷たさがありつつも、それを打ち消すどころかかえって美を引き立たせる器量となんでもひと通りそうなくこなせる器用があった。自分や同輩たちが浜万と同じ年ごろまで成長しても匹敵しない実力を持っている、才能ある忍であると伊湖は捉えていた。天上人のような男かと思いきや、話しかけてみればなんの変哲もない雑談に応じてくれる。なにか言葉をかけられる度に自分の中で嬉しさと優越感、そして若干の嫉妬が入り混じる自分が少し怖くて、伊湖は浜万を慕いつつも己から一定の距離を置いていた。
浜万があっさりと死んだなど、受け入れる事は出来なかった。戦って死んだなら余程の実力を持つ相手だったはずだがそんな話はなぜかひとつも聞こえてこない。水面下で調べ続けた結果、どうやら浜万の同輩である大柄でよく肥えた男が最初にこの知らせを持ってきたという事を突き止めた。
「絶対嘘だ。あいつは何かを隠してる」
肥えた男の事も多少は知っている。直に話した事はなかったが、浜万の同輩で時々仕事も組んでいたようだった。いつもうるさくて、目障りで、いつも何か訳のわからない話を捲し立てており、浜万がしょっちゅう鬱陶しそうな顔をしていた事が記憶に残っている。
名前もない木っ葉の分際で浜万と対等に口をきいている様子に苛立った事も何度かある。あれほど愚鈍そうな男が手負の傷も負わず浜万が死んだ情報を持ち帰るのは何かが引っかかる。
「あいつから話を聞く必要がある。事と次第によっては殺す。他の奴らがやらないなら、私が浜万くんの仇を討つ」
忍が依頼なしで同じ里の忍びを殺す事は、如何なる理由があっても許されなかった。掟を破って処刑される者は毎年何人もおり、そんな奴らは馬鹿だと蔑んできた。
けれど伊湖にはもう、何もしないままではいられなかった。
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