第4話
「王太子殿下が本日午後に見舞いに伺うとの先触れをいただきました」
執事のマシューが恭しく告げる。
「本来ならもっと早くに見舞ってほしいものだが、つい先日大きな捕り物があったそうだしな…アナ、問題ないか?」
少し渋い顔の公爵が問いかける。
「はい」
公爵令嬢の身で登城するのは少々難があるが、向こうからやって来るとは好都合だ。
次の妃教育とやらを待たなければならないと思っていたところだ。
ギルフォードの中にいるのは何なのか、見極めなければならない。
白に限りなく近いペールブルーのふんわりとしたシフォンドレスを纏い、サイドは編み込みしてシニョンにまとめる。
「良くお似合いですよ。お嬢様」
女は辛いよ。
コルセットと言う名の拷問具を着せられ、髪は頭が痛くなるほど強く引っ張られ、腰に痛みをもたらすヒールの高い靴を履かされ…何かの罰なのかと思う。
整えてくれたジェイミーに軽く礼を言い、王太子を出迎えるためにホールへ向かう。
…面倒くさい。
アナスタシアも、私を迎える時はそう感じただろうか?
「ようこそいらっしゃいました。ギルフォード様」
カーテシーをして王太子その人を出迎える。
今の王太子は”将来の賢帝”と言われているようだ。私よりも策に長け、柔軟に対応できる手腕を持つ。
悔しいが私の時のように王太子の座が危ぶまれるようなことはないだろうな。
王太子は大柄で仏頂面の1人の護衛と、小柄で王太子と同じくらいであろう1人の近習を連れていた。
護衛は変わらずマンフレッドだ。懐かしい。強面だがいいヤツだ。
もう1人の近習の方は見たことがないな…。貴族の子ではなく、どこからか抜擢したのだろうか…。
黒い髪、黒い目、シャツからコートまで黒い装い…黒尽くしだ。
王太子は見舞いの花を執事に預けて応接間へと通されると、アナスタシアと向かう合うよう長椅子に座った。
その椅子の後方に近習は立つ。
マンフレッドのように入口で控えているのかと思ったら…これは少々話しにくいな。
近習がいるのに『アナタ誰ですか?』とは質問できない。
温められたカップに紅茶が注がれ茶請けが用意されると、使用人たちは一斉に下がる。
紅茶のカップに口を付け、王太子は最初の言葉を紡ぐ。
「記憶喪失になってしまったそうだね。可哀相に…大変だろう?」
「いえ…皆よくして下さるので…。ただ知らないことが多くて戸惑います」
何の疑問もないように話す王太子。実は自分は分裂していて、あの中にいるのも自分なのだろうか。
「それなら教えてやろう。君はお粗末な嘘を本気にして、清廉潔白な1人の女性を死に追いやった罪深き元王太子ということだ」
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