第3話

あれから一週間。フォンデール家のことが少し分かってきた。

アナスタシアが弟との2人姉弟ということは知っていたが、その弟ルイは母親に溺愛され、アナスタシアが空気のように扱われているのは知らなかった。

確かアナスタシアの実母が病気で早逝したため、後妻を取ったのだったな…。現公爵夫人・ベアトリスはアナスタシアにとっては血縁でもない義母ということだ。


今日とて朝食室から出て自室で少し寛いでいると


「アナスタシア! 何ですか! さきほどの食事のとり方は! 14歳にもなってまだ身についていないなんて…」


厳しい声をかけながら継母が乗り込んできた。


「ノックをして入室の許可も得ない貴女よりは出来ていますよ。鯛のポワレも、貴女や弟のように汚く崩したりはしなかったし」


私は王太子だ。食事のマナーなどは徹底的に叩き込まれる。

しかし事実を言っただけなのに、継母はいきり立ってアナスタシアの腕を強く掴んできた。


「母親に口答えなんて、さすが売女の子ね! 礼儀がなってないわ!」


売女…?


「伯母上のことを売女呼ばわりするか、この下衆め」


公爵の最初の妻は王弟殿下の妻…隣国第二王女との姉妹・第三王女だ。実に優しい方だった。

元伯爵家令嬢の継母が蔑むことが出来る相手ではない。


「かの第三王女を貶めることは縁を結んだ王弟殿下を…ひいては王家を愚弄する行為だ。謝罪せよ!」

「母になんて口の利き方です!」


そしてベアトリスは持っている物差しで、手や腕を打つ。

アナスタシアは未来の王子妃だというのに、この継母は姿勢が悪いだのマナーがなってないだのと言っては物差しであちこち叩いてくるのだ。

叔母のことまで悪く言われた私は物差しを奪い取り、逆にこの女を打ち据えた。


「ひぃ! 何をするの…! 痛い! やめて…やめて!」

「何を言っている? マナーがなっていないと私を打っただろうに。フォークの扱いが下手な分と王族を悪し様に言った分罰を与える必要があるだろう?」


継母がすすり泣きだした頃、継母が持っていた物差しを真っ二つに折り、彼女の前に投げ捨てる。

ベアトリスは物差しを折る派手な音にビクつき、更に怯えた顔をする。


「こうなりたくなければ二度と私に関わるな。”売女”呼ばわりしたことは公爵に告げておく」


私はすぐ自室を出て公爵の執務室に行き、打たれて赤くなった手や腕を見せ、日常的に虐待していた旨、元の公爵夫人を口汚く罵ったことを報告した。

本来のアナスタシアは子供は大人に逆らうものではない という教えの中、ひたすら耐えてきたのだろう。

…私は王太子なので”大人の方が偉い”という理屈は通用しない。

父王が最も高位で、次点が私なのだ。


後に後添えのベアトリスは実家へ帰された。

帰されたと言っても醜聞になるので、すぐ修道院送りか、子爵家の籍から抜かれてしまうだろう。

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