「私に従って!」が口癖の幼馴染勇者のために、僕は死ぬことにした。
永久燿
第1話
プロローグ-第一話〜失う者〜
「ゲホッ、ゲホ、ゴホ...お、おえええええええ......」
「何度言ったらわかるのですか? 剣は抜刀時が一番切りやすいんです。私に従いなさい!! 」
ああ、僕は何度このセリフを聞いただろうか。
それと同時にこの世界にはない魔法や奇跡を欲っしてしまう。
そう思いながらも、反吐を吐き、また立ち上がる。
もしこれが彼女と一体一でのデートならもっと楽だろうが、今は剣の稽古中だ。
毎日のように行う稽古だが、昔のように楽しくはなくなっていた。
「立ってください。稽古を続けます!」
そう言う彼女に向かって剣を構え、再び剣を交える。
何を隠そう彼女のこと、現代勇者は歴代最強と謳われ、魔王を意図も簡単に打ち倒した。
その名は、
彼女は東方の島国出身で僕の幼馴染だ。
ドスッ!!
「ゲホッ...!!」
彼女は隙を見て僕のみぞおちへとグーを入れてきた。
その勢いのまま僕は倒れ込み、出もしないゲロでむせ返る。
「何度言えばわかるのですか! 抜刀はもっと素早く!! そんなではいつになっても魔族に勝てませんよ!! ほら、早く立ちなさい」
「はい...」
その日は結局何度吐いたか分からないが、稽古は続いた。
そして稽古が終わっても、僕に自由はない。
部屋へと連れていかれ、彼女は外側から鍵をかける。
部屋にはトイレもお風呂もその他諸々の家具も、全部あるのだが、窓だけは一つもないのだ。
唯一外へ出るためのドアも鍵が掛けられ、逃げ道などなかった。
「今日も...厳しかったな。いつからなんだろ...咲那が変わちゃったのって...」
ベッドに横になるが、まだ昼間なので寝る気も起きなかった。
仕方ないので本棚から適当に見繕って本を読むが、同じ本ばかりだ。
そうしてしばらくすると彼女が戻ってきて、昼食を渡される。
部屋にはちょうど二人分の机と椅子が用意されているので、いつも彼女と食べている。
今日の昼食も冷めきったものばかりで、あまり美味しくなかった。
これも毒が入っていないことを確かめるためなので仕方ない。
有名になればなるほど、名誉も地位もお金もあるが、そんなものは役に立たない。
そして昼食が終われば、彼女は二人分の食器を抱え、再びドアに鍵をかけた。
もう毎日見る光景だが、日に日に彼女との会話はなくなっていく。
しかし彼女が幸せであるならば僕はそれでいい。
ベッドへと寝転がると消化のためか眠気が出てくる。
これも毎日同じであって、このまま寝てしまうのも同じである。
変わらない日々、終わらない一日、これが本当に僕と彼女が求めていたものなのだろうか...。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「桜! 桜!!」
どこからか僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
その声は幼い頃の彼女の声に似ており、ハッとした時には昔の光景が目に浮かんでいた。
東方の小さな島国である、僕達の故郷は昔の教えを大事にし、それを崩さないように次の世代へと受け継いでいた。
その一つである夜桜流剣術は、何百年もの前から夜桜家が教える剣術であり、僕と彼女がその後継者だ。
彼女は小さい頃からその才能を開花させ、あっという間に剣術をマスターしていた。
しかし、彼女の幼馴染である僕はいつになっても才能は開花することはなく、よく周りから虐められていた。
夜桜流を習うには相当きつい試験があるのだが、僕はその試験でたまたま受かってしまい、中に入れば落ちこぼれだった。
そのせいか、試験に受かったのは咲那からの推薦ではという噂がたち始め、一部の生徒達からはインチキだのなんだのと言われる始末。
しかし僕だけならまだ良かったのだが、咲那にまでそのことを言った馬鹿がいるのだろう。
そいつはボコボコにされ、一時期だが物凄い大事になったのだ。
その後、咲那の親からは「これ以上娘に関わらないでくれ」と言われ、僕は追放される。
最初からこうすれば彼女に迷惑をかけることもなかっただろう。
僕が追放されたことを聞いた彼女は激怒し、今度は親(先生)をボコボコにした。
そして意地でも僕の追放の取り消しをさせ、咲那自身が僕の稽古をつけてくれた。
そして時は流れ、僕もある程度剣術を使えるようになると、王国の貴族達に目をつけられた。
特に咲那はその圧倒的強さから、王国一の騎士団を一騎打ちで完封し、わずか半年で騎士団長へと昇進、一躍有名人だった。
そんな彼女はいずれ僕から離れていくだろうと思った矢先、僕は咲那の推薦で騎士団の副団長へとなってしまう。
もちろんこれをよく思う奴など誰一人いなかったし、今回は咲那おこぼれをもらったに過ぎない。
さらに時は過ぎていき、ついに咲那は勇者へと任命され、数百年続いていた魔族討伐に参加する。
もちろん僕も参加していたが咲那について行くだけで精一杯だった。
また咲那が全線に加わると同時に、魔族は凄まじい勢いで減っていき、魔族の頭である魔王もわずか一年で倒されてしまう。
その圧倒的強さから彼女を恐れる者もいたが、今じゃ英雄としてその名を知らないものはいないだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「桜...起きなさい、桜!!」
「う、うーん...はっ! ご、ごめん咲那!! 」
「教会から招集がかかりました。 すぐに用意しなさい!」
「教会? なんで今更...」
「分かりませんが、急用のようですので急いでください」
僕は咲那に言われた通り、服を着替え、鎧に身を包み、腰に剣をぶら下げる。
急いで部屋から出るとドア前には咲那が待っていた。
「準備できました...」
そう僕が言うと彼女は軽く頷いて、着いて来るように合図を送ってくる。
言われるがまま着いて行くが先程から胸騒ぎが治まらない。
この感覚は以前、魔王と対峙した時同様だ。
しかしその時は心配のし過ぎだと割り切り、目的地へと向かった。
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そして着いた場所は森の奥深くにある「無の土地」と呼ばれ、そこには大きな地割れが存在する。
その地割れの底は見えることはなく、落ちれば
「緊急の呼び出しと聞いて来ましたが、何かございましたか?」
咲那はそう言うと、既に目的地へと来ていた教会の連中の一人が前に出てくる。
いかにも神の信仰者であろう服装に、綺麗に丸められた頭、そして裕福な育ちの証である立派なお腹。
これ以上にないくらいの大物だ。
そんな彼は卑しい表情をし、手を擦りながら、事の経緯を話し始めた。
「え、ええ...実は勇者様が先日倒された魔王の気配が消えたと思っていたのですが......この『無の土地』で再び感じられたそうなのです。しかしその予言のあと我らが聖女様の体調を崩されまして、もしや魔王の復活かもしれないのです」
また予言とやらなんやらを信じて、わざわざ僕達を呼んだらしい。
呼び出されるこちらとしてもいい加減にして欲しいものだ。
魔王は何もする事ができずに咲那の手によって葬られた。
それなのに復活など...どこぞやの魔法でなければ無理だろう。
それこそ大昔の大魔王くらいでないとできないことだ。
「魔王なら私と桜が倒しました。聖女がどんな方かは分かりませんが、とても妄言としか思えません」
「ええ、私どもも信じたくはありません。しかし...本当にこの場に魔王が現れなければすぐにでも我々は撤退しましたよ」
「何を...ゔう!?」
それは突然の事だった。
咲那が倒れ込み、お腹辺りからは真っ赤な血が滲んでいた。
また聖職者の手には聖属性の付与された短剣が握られ、赤い血が付着していた。
僕は一瞬何が起きたのか理解ができず、その場で息を荒らげる。
すると聖職者は笑いだし、この場に僕達を呼んだ本当の理由を告げてくる。
「ふふふっ、はははははは!!! これで魔王は消えた!! 我ら人類の勝利だ!!」
「咲那、咲那! 大丈夫か! き、貴様! 何をする!!」
倒れ込む咲那を抱きかかえ、微かに息をしているのを確認する。
そして急いで持っていた回復薬を飲ませる。
傷こそ塞がったが大量出血のせいで意識が安定しなかった。
「おやおや、エリクサーですか...そのような大層なものをこんな穢れた者に使うべきではありませんよ」
「貴様ァ! 何をしたかわかっているか!! 勇者を殺せばお前は大罪人だぞ!!」
「違いますよ、桜殿。私達は思ったのです! 魔王が倒され、聖女の予言が本当であれば、次に魔王になるのは勇者咲那、たった一人だと...」
「ふざけるな!! 咲那がどれだけ民のために尽くしてきたか忘れたのか! 今回の予言はただの言いがかりだ!!」
「いえ、我々は確証を持ってここにいます」
「か、確証...だと......」
「ええ、そうです。それは桜殿との関係でございます」
「咲那は僕と恋仲だ! それのどこが証拠になるんだ!!」
「それは表向きですね。桜殿を監視し、そして判明したのです。あの勇者が桜殿に毎朝稽古と言って貴方を一方的に攻撃し、貴方は血反吐を吐いたこともあったでしょう。そこで我々は貴方が魔王に魔法とやらで操られているのではないかと...。そうすれば貴方が今まで人との交流を避け、またいつも魔王の近くにいたことと合点がいくのです」
そう言われ胸の奥底が急に苦しくなった。
言われてみればそうかもしれないと思ってしまった。
今まで僕は咲那のためにと頑張ってきたが、いつの間にか咲那との恋仲の関係や楽しい会話もなくなったいた。
本当にいつからは分からない。
だが彼女が魔王であるはずなんてない。
これまでどれだけの困難があっても仲間と協力し、彼女は勇者になった。
それなのに...僕は一瞬でも彼女を疑ってしまった。
「さあ! 桜殿、今ならそこの魔王との関係を話してください! すれば貴方は救われるのです!!」
半ば脅しのように聞こえた。
もしこれであいつらの言う通りに話せば、咲那は国を救った大英雄から一変、最悪の魔王として名を刻むだろう。
これは僕の不甲斐なさが起こしてしまったことだ。
せめて彼女だけでも救われる道を選択する。
その選択はたった一つだけ...。
醜くとも浅はかでもいい、愚かでも馬鹿げていてもいい、全ては彼女が救われればそれでいい。
その瞬間、あることを理解する。
この場でなければ分からなかった真実に。
今までは魔王が全て悪いと決めつけていた。
しかし、今思えば魔王やその兵達が自ずとこちらを攻めてきたことはない。
それどころか攻め入ったのは人間の方ではないか。
恋は盲目と言うが正義も盲目なのだろう。
そして理解する、魔王と言う存在を。
醜い皮を被った正義であることに...。
僕は彼女を寝かせ、そっと立ち上がった。
そして薄汚く笑うこの豚は勘違いをしたのか勝利を確証する。
自らの行いが正しく評価され、他人を蹴落としていることに気づいてない。
こんな醜い豚こそ、人間(悪)にふさわしい!!
「アハハハハハハハ!!! 愚かだ...本当に愚かだな!! 人間!!!」
「さ、桜殿!?」
「確かに僕と彼女との関係に目をつけた事は賞賛に値する。だがそこからが浅はかだな人間!」
「何を言って...ま、まさか!?」
「ああ、そのまさかだ...」
豚が後ろにいた騎士達へと声を張るがもう遅かった。
既にその首は地に落ち、大量の
辺りにいた騎士五人は急いで剣を抜く。
そして目の前にいる化け物に挑むもうと構えるが、その剣先は震え、足先も震えていた。
僕はその間に自らの姿を変える。
それは昔、僕が虐められる原因となった魔力によって...。
「移行...
そう唱えると同時に僕の体は魔力に覆われる。
すると周りからは僕の姿が一番見たくないモノに変わる。
そこから察するに騎士団達には僕が本物の魔王に見えている訳だ。
「は、早くこいつをころ...」
そう叫んだ一人の騎士は唐突に切り伏せられる。
目にも止まらぬ速さで切られたため、切られた皮膚すら気づいていない様子だった。
血飛沫を撒き散らしながら倒れ込む亡骸に、残りの四人はそれを見てどうすることもできなかった。
動けば殺されるとわかっているし、逆に動かなくても殺される。
ガタガタと震える体を必死に動かそうとするが次の一歩が出ない。
すると次の瞬間、一人が失禁し、地面には軽く水滴が落ちる。
恐れから逃げるためには最良の事だが、こうも恐れられるとは才能があるのかもしれないな。
そして時間も惜しいため、口封じに四人まとめて切り捨てる。
「夜桜流剣術、居合...アマノガワ!!」
この剣術は咲那にそれこそ血反吐が出るほど鍛えられたものの一つだ。
剣の抜刀と納刀を素早く行い、その間に切り裂く、そうすることで次の一撃に繋げたり、相手に隙を与えない事ができる。
計六人全員を切り終わり、僕は気絶した咲那を抱きかかえる。
今日はこのまま帰り、何事もなかったかのように明日を過ごそうと考えていた矢先だった。
「来るのが遅くなってしまいましたが、やはり新たな魔王が生まれてしまいましたか」
その声は何度聞いても心地よく、そして聞いた人を安心させる。
しかし、今は絶対に聞きたくなかった声でもあった。
「聖女...様......」
そうボソッと呟いた僕に聖女は涙を流していた。
「一人の司祭が早とちりをし、その結果桜様が魔王となってしまった。これが運命というのであれば従うしかありませんね」
そう言う聖女様後ろには五百いや、千を超える騎士達がこちらへと向かってきていた。
もうこうなればどこにも逃げることは不可能だろう。
覚悟を決めた僕は咲那をその場に下ろし、戦場へと向かう。
その時だった。
「さ、さく...ら......おいて...いかない...で......」
咲那はそう言いながら涙を流していたが、意識はない。
彼女にとって僕は使えないただの幼馴染としか思われていないと思っていた。
でも違った。
彼女はちゃんと僕を見ていた。
僕の剣を正し、良い方向へと導いていたのだろう。
ただ彼女は教え方を知らなかっただけだ。
それにしても厳しかったのは幼馴染だろか...。
「ごめんね、咲那。僕、ちゃんと君に伝えられなかったけど.......」
迫り来る勇者達にたった一人の魔王が愛する者の為に立ち塞がる。
その姿は本来勇者達の方であろうにもかかわらず、勇者達は魔王を追い詰める。
魔王は恐ろしく強く、いくら勇者達でも負けてしまう。
しかし勇者達には数があり、魔王はたった一人である。
一人殺してまた一人と殺し合うが、時に魔王は剣で切られ、槍で突かれ、飛んできた矢が身体中に刺さる。
その度に悲痛な叫びを我慢し、抑え込む。
とてもじゃないが普通の人間に耐えられる所業ではない。
そして気づけば朝日が昇り、夜が終わる。
それが知らせるのは勇者達の勝利であるか、それとも魔王の勝利か。
傷だらけの腕を振り上げ、背中には矢が刺さり、脇腹には槍が刺さっている。
大量出血のせいか、目眩が生じて、立っているのもやっとである。
「うおおおおおおおお!!!」
最後の一人を見事討ち取り、魔王だけが生き残る。
おびただしい数の死体に、血の海に変わった大地、勝利を告げる太陽。
その全ては醜く、そしてある意味でも終わりそのものだった。
すると聖女様は魔王の目の前へと現れるが戦う気はないのだろう。
いや、もう既に
「聖女...様...咲那、だけは!! どうか助けて...ください」
意識が飛びそうになりながらも聖女様へとそう懇願する。
すると聖女様は快く返事をし、頭を下げる。
「ごめんなさい。私は貴方が魔王ではないことくらいわかっています。ですが貴方はおそらく史上最悪の魔王として名を刻むでしょう。しかし貴方はそれでも彼女を選んだのです。私はそんな貴方を尊敬します」
「はは、僕は...ずっと彼女に伝えられませんでした。それがこの結果です。だからもう...泣かないでください聖女様」
「私が貴方を殺したようなものなのです。だから...ごめんなさい」
「聖女様は人のために戦ったに過ぎません。それでは聖女様、咲那を...頼みました」
そう言った魔王は谷底へと落ちていく。
その姿を見送る聖女は目から涙を零し、祈りを捧げる。
「ずっとお慕いしておりましたよ、桜様。ですがお別れです。今度生まれ変わった時には幸せな人生を...どうか我が神よ」
太陽の光が見えなくなり、地の底へと落ちていく。
深く深く、それは深く落ちていく。
次第に全身の痛みも消え、意識ももう持たない。
これが自分の限界なのだろう。
そう思った時だった。
彼女に伝えられなかった事を不意に口に零してしまう。
どうやら死に際には悔いのない方がいいのだろう。
「愛しているよ...咲那」
そう涙を流し、ついに魔王は意識が消えた。
新たな勇者の誕生を確認。
「ブレイブソウル」を獲得。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの事件から数日。
事は聖女から民衆へと発せられ、人々は驚き、時に泣く者や歓喜する者、そして疑う者など様々だった。
しかし、魔王は復活したが聖女と勇者の手によって倒された言われ、聖女曰くもう二度と復活する事はないと保証された。
その損失として聖女隊の騎士の九割を失ったと追加で報告がくだった。
〜勇者の寝室〜
目が覚めた私は急な脇腹の痛みに驚きますが、気づけば涙だが止まりませんでした。
するとドアが開き、誰かが入ってきます。
「さ、桜? 桜!!」
そう期待していましたが、目の前には聖女様が現れたのでした。
そして聖女様は落ち着いて聞くようにと険しい顔をして事を話くれました。
もちろんそんな話を最初は信じられませんでした。
なんて言っても最愛の桜が魔王として死んだと言われたのだから。
しかし聖女様の表情からその話が本当であるとすぐに分かりました。
私は拳を握りしめ、怒りと憎しみを堪えましたが、我慢も限界もできるはずがなく...。
「ふざけないでください!! 桜が魔王だなんて有り得ません!!! 元はと言えば貴方が変な予言をしなければッ!!」
「早とちりをした司祭は桜様の手によって断罪されました。それでも許せないのなら私を切って頂いて構いません。それで貴方の気が済むのならそうすればいい」
「そんな事をしても無駄ですよ。だってもう...もう...桜は戻って来ないんですから!!!」
「泣きたい気持ちは分かります。ですが貴方は勇者です。人々にその背を見せ、安心させなければいけません。彼のためにも...」
「ッ!!」
気づけば私は聖女を平手打ちしていました。
この女がいなければ桜は今日も生きられたと心のそこら底で思ってしまったのでしょう。
しかし平手打ちをされたのにも関わらず聖女は私の胸ぐらを掴んで声を荒らげた。
「いい加減大人になりなさい!! 私だって彼が魔王でない事くらいわかっています! ですが彼は貴方にかけられた火の粉を消すために散ったのです!! 確かに私の予言がなければこんな事にもならなかったでしょう。ですが彼は貴方だけが生き残る選択をしたのです!! いつまで彼を縛り付ける気ですか? 貴方は彼に選ばれたんですから、いい加減大人になりなさい」
「聖女...様」
どうやら私は勘違いをしていたのでしょう。
よく見れば彼女の目の辺りは赤く腫れており、涙が通ったであろう痕がくっきりと残っていました。
おそらく彼女はずっと泣いていたのでしょう。
それもそのはず、聖女様と最初お会いした時も桜とは仲が良く、お茶会と言ってよく二人で話していた。
そう思えばいつからだろうか。
そんな彼を縛り、私だけを見るように嫉妬の念を押し付けだしたのは。
彼が他のものに目移りする度に私は嫉妬してしまった。
今思えばもっと自由にさせてあげればよかった。
だって彼は絶対に私の元に戻ってきてくれるんですから。
いくらほかの女性や興味を引くものに出会っても、彼は結局私の元に戻ってきてくれて、卑屈な私を楽しませてくれました。
だからこそ彼と恋仲になった時はとても嬉しく思いました。
ですが毎晩身体を交し、その度に伝えられない事やお互いの気持ちを理解してきました。
そんな関係も私が壊してしまったのでしょう。
彼を束縛し、他のものを寄せ付けないようにしてしまった。
彼の好きな物は置かず、好きでも嫌いでもないちょうどいいものを置き、その頃からか身体を交わす事もなくなってしまった。
そして私はあろう事か彼に八つ当たりのように稽古と言って剣をを振るわせました。
日々溜まる鬱憤を彼にぶつけ、彼はそれでも怒る事はなく私のそばにいてくれた。
ああ、私は今まで馬鹿だった。
彼の全てを奪ってしまった。
そんな彼に謝りたい、しかしそんな彼はもう居ない。
「ごめんね、ごめんなさい桜。私もずっと貴方を...」
そう言って嘆く私を聖女様はそっと抱きしめてくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はその後、王から正式に英雄として賞賛され、王国の時期後継者として選ばれました。
その日にはパレードが開かれ、国中どこもかしこも魔王の死を祝い、勇者の誕生を歓喜していました。
しかし、嘘で固められた魔王を人々は笑うように貶し、まるで本当の事を見ようともしなかった。
私はそんな彼らを見て腸が煮えくり返るかと思いました。
また祖国である東国へと戻った際にはもちろん両親からは褒められ、周りからはよくやったとおだてあげられました。
しかし「桜」の事は最悪魔王としてその名を禁じるほど酷い扱いをされていました。
特に許せなかったのは彼の唯一の親である母親を処刑し、ついには晒し首にまでされ、見るも耐えられない状況でした。
そんな状況にも関わらずここの人間どもは笑い、歓喜しているのです。
私は我慢と言って自分を言い聞かせ、この人間どもに従っていました。
そして一年が過ぎると私はついに王へとなり、国民全員の期待を背負っていました。
「女王陛下!! 我々にご命令を!!」
そう言って忠犬のように従う人間どもに向かって私はこう告げるのです。
「東国(醜い豚ども)を滅ぼしなさい」
彼を馬鹿にし笑った人間どもは皆殺しにしましょう!!
そうして王国史上最悪の歴史が幕を開けたのだ。
新たな魔王の誕生を確認。
「断罪者」
END
「私に従って!」が口癖の幼馴染勇者のために、僕は死ぬことにした。 永久燿 @eikyu
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