第30話 高校生俳優のアドリブ演技

今の状況を整理しよう!

・人手が足りない

・全員何かしらの仕事があり、できそうなものもない(つまり、時間がかかる)


ということらしい。なら方法一つしかないよね!と思い、とある方向を見ると、いかにも待ってました!って顔してる愛花と目が合った。


「おい愛花、なんだその待ってました!って顔は」

「え?だって栄太君アドリブ入れて時間稼ぎしようとしてたんでしょ?」

「なんでバレてんだよ…」

「そりゃあ彼氏である栄太君のことですから!熟知してるんだよ!」

「如何にも付き合って長いんですみたいな言い方してるけど3か月ちょっとだからな?あと普通に怖いことしてるからな?」


むしろ彼氏だってだけでほぼテレパシーを受け取ったみたいなことできんのかよ。

というかまずテレパシーすら出してないんだけれども。すると、例の通称優しいくんが、


「本当に誰か手は空いていないかい!?このままだとせっかくの劇が台無しになってしまう...」

「なぁ質問なんだが…」

「なんだい早川君!」

「今この場に時間さえあれば手が空くやつはいるか?」

「俺なら手空くぞ!照明の画角を調整する時間さえあればそれができ次第だけどな!」

「よし!なら俺と愛花に提案がある、それは俺と愛花で急遽アドリブの場所を作って時間を稼ぐから、その間に何とか間に合わせてくれ!さっきの照明のやつ、それ何分あれば足りる?」

「少し長いかもだが…5分もあれば絶対に足りるぞ!」

「わかった、じゃあその方針でよろしく頼む」


正直、俺は多分何とかなるが、できると言っていた愛花がとても心配だ。

単純に噛むかもしれないし、焦って変な演技になりそうだと思ったからだ。


「栄太君、どうしようか?」

「どうしようって?」

「アドリブって今からパッと考えるんじゃ?」

「いや、多分そんな考えてる時間はないから、本来の…そうだ、告白するときのセリフ、あれを少し...観客に気づかれない程度に伸ばすから、愛花も伸ばしてくれ、んで多分OKサインみたいなのは来ると思うから、そこでうまく切れば問題ないだろ?」

「そうだね!やっぱり明様は違うね!」

「多分今の俺にこんな風に接せれるの先生とお前ぐらいだぞ…?」

「それはあんなけ夏休みに一緒にいたら慣れるよ♪」


そうでした。すんごい勉強教えてもらって死にそうだったけど最高に幸せな時間でした。いやいやそんなこと思い出してる場合じゃなかった!


「愛花、そろそろ...」

「そうだね!頑張ろうね!」

「そうだな!期待してるよ、愛花」


そうして俺は定位置に着く。


「『王女、俺はあなたと最初に出会ったときに一目ぼれしてしまいました』、最初は少し関係があっただけのこんな自分には告白することも許されないのでは…とか思っていました…だけど、今は魔王を倒し、この自分にも自信が持てました!たとえ貴方の返事がどちらでも構いません!『俺は貴方にふさわしい男かはわかりませんが、結婚を前提に付き合ってください!』」


本来、このセリフは台本だと『』の部分2つがつながっているだけの、

「王女、俺はあなたと最初に出会ったときに一目ぼれしてしまいました、貴方にふさわしい男かはわかりませんが、結婚を前提に付き合ってください!」

というものだったのだが、これを少し長くしただけでは時間稼ぎにはならない。

そのため、少し遅めにしっかりと話すことで観客に伝わりやすい+時間稼ぎができるこのやり方をとらせてもらった。他の移動とかで30秒は潰れる前提の計算なんだけどね、コレ。今の俺のこれで2分半、30秒も潰れてたとしても3分、あとは愛花がどれくらい伸ばせるかだが...。


「私は、貴方のことが好きかはわかりませんでした、ですが、貴方が魔王討伐に向かった後...」


えぇー。何故これくらいかと言いますと、俺が覚えてないからです。長すぎて。

いやマジで演技上手いわアドリブなっげぇの思いつくわでもう演技の天才じゃん!俺よりすごいセンス持ってるでしょ!まぁともかくアドリブ作戦は大成功、かな。


その後、戻った俺たちはみんなからの賞賛の嵐に加え、俺に関しては胴上げまでされた。そして最後のよくある「ありがとうございました!」って喋るやつの時に偶々浜田さんを見つけた俺は目があったんだけど、何か如何にも嫌な予感がするようなニヤリと笑ってる顔をしていた。まだまだ波乱は終わらなさそうだな、これは。

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