大嫌いでブスな幼馴染を池に突き落としたら、聖女で美少女な幼馴染に交換された話
華川とうふ
第1話 昔々、幼馴染がいました。
俺には幼馴染がいる。
幼馴染と言えば、ラノベとかゲームとかでは無敵の存在だ。
小さいころからずっと一緒で、俺のことをすべて理解してくれて、世話を焼いてくれる。
特になにもしなくても恋に落ちる。
そういう存在。
だけれど、現実はそんなに甘くない。
俺の幼馴染は最悪だった。
家が隣同士で親同士も仲良し、物心ついたときからあいつはいつも俺のそばにいた。
俺と幼馴染の関係は最悪だった。
幼馴染のあいつはなんでもできた。
一緒に習い始めた水泳も公文もピアノもなんでも俺よりうまくこなした。
上手いのは別に構わない。
あいつの方が才能があるというだけだ。
だけど、あいつはいつだって俺の様子をみてはあざ笑う。
どんな習い事も最初は楽しかった。
新しいものに触れるのは面白いし、「勝負しよ!」と俺に挑んでくる幼馴染との勝負だって無邪気に楽しむことができた。
あいつの家の庭にある小さな池。そこでいつもあいつは勝負を挑んできた。
だけれど、何度もいろいろなことで勝負に負け続けるうちに俺は己を知った。
子供ながらに自分は平凡であり、人間あきらめが肝心だと思うようになった。
小学校に入ってからもそれは変わらなかった。
小学校に入っても、幼馴染のあいつは絶対に勝てる相手である俺に勝負を挑み続けた。
もっと競うのにふさわしい相手もいるだろうに、なぜかあいつは俺に勝負を挑んでくる。
「ねえ、今度の持久走大会の順位勝負しよ!」
「漢字力、計算力テスト負けた方が給食のプリンを勝った方にあげること!」
「今度の縄跳び大会、負けた方が買った方の言うことなんでも聞くなんてどう?」
そう言って、あいつは俺のすべてを奪い続けた。
俺の人生はすべてあいつに支配され、大切なものは奪われていった。
一度だけ、あいつとの勝負に勝てそうになったことがあった。
そう、図書室の本を読もう運動とかそんな感じの名前で、図書室の本を借りてたくさん読みましょう。
その一年間の貸出数が多い子を読書家として表彰するというものだった。
偶然にも俺は図書室の本をよく借りていた。
なにを隠そう、あいつから勝負を挑まれるのが嫌で、時間があれば図書室に逃げ込んで本を読むようになっていたから。
もちろん、そんなことをしらないあいつは俺に勝負を挑んできた。
「ねえ、図書館の読書家ナンバーワン私がとったら……」
あまり良く覚えていない。
いや、思い出したくないのだ。
「……もうやめてくれ。嫌なんだよ。お前と勝負するのは」
俺はいつもはどうすることもできず勝負を受け入れるだけだったが、その時だけは逆らった。
あいつは大きな目をいつも以上に大きく見開いた。
「なんで?」
心の底から意味が分からないというような表情をしていた。
「お前と競わされる嫌なんだ。お前はいつも勝てて気持ちいいかもしれないけれど……俺はいつも負けて、すごく嫌な気分だし。そのせいでいろんなことのやる気がなくなるんだよ」
俺はそのときはじめて思っていることをあいつに口にだしていったかもしれない。
「そんな風に思っていたなんて知らなかった」
「ああ、そりゃあそうだろうな。なんでもできるお前にいつも負けて奪われ続ける俺の気持ちなんて分からないだろうな」
俺はその日の給食のプリンも勝負に負けてとられたせいで苛立っていた。
「じゃあ、次は負けてあげるから。お願い! 勝負しよ?」
あの時の俺はどうしようもないくらい卑屈になっていた。
『負けてあげる』その言葉は俺の心をさらに傷つけた。
「わざと負けるとか俺のことどれだけなめてるんだよ。もうお前とは勝負しない。それだけだ」
「お願い……そんなこと言わないで!」
幼馴染のあいつは縋りつくように俺の肩に手を触れてきた。
「やめろよ!」
そう言って俺が手を振り払うと、あいつは池に落ちた。
世界がスローモーションになるなんてことはなく、ただ『ボチャンッ』と鈍い音がしただけだった。
冷たい水しぶきが俺にもかかったから分かった。
大嫌いな幼馴染のあいつは池に落ちたのだ。
そして、翌日から俺の世界は変わった。
俺の大嫌いな幼馴染はこの世界からいなくなった。
俺に勝負を挑んでくる奴はいない。
俺の人生はそれまでよりずっと息のしやすいものになった。
俺は再びいろんなものに取り組めるようになった。
勉強もちょっとやれば簡単にできるし、誰かと競わずにただ走るのは頭がすっきりして楽しかった。
優しいピアノの先生との一対一のレッスンは楽しく、次の合唱コンクールでは伴奏に選ばれた。
人生のすべてがうまくいくようになった。
心に余裕ができ、ふとあいつのこと思い出したとき、お隣の家を覗くと引っ越していて空き家になっていた。
罪悪感がないと言えば嘘になる。
だけれど、俺の生きる世界は灰色がかったものから、はっきりと色彩のもったものに変わっていった。
今日という日が来る日までは。
あいつのことなんて忘れたと自分に言い聞かせるのも慣れ切った高校生活のある日。
もう、あいつの存在なんてきっと子供の妄想だと思い始めていた。
子供特有の空想の友達。
自分で何度もいいきかせて、信じ始めていたのに。
「久しぶりだね。私のこと忘れてないよね?」
見たこともない美少女が俺の前に現れたのだった。
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