第26話 改村
「えっ……」
「どうしました? 壁が低く過ぎましたかね? 二十メルぐらいにします?」
試しに作った十メル程度の木レンガの壁を見て、開拓村の代表の男、アヒムは口をパクパクさせている。
「いや……そうじゃなくて……」
「あぁ、壁の厚みですか? そこはまた調整しますんで」
「そうでもなくて……」
「マルスよ。アヒムは驚いているだけだ。何でもう、壁が出来ているのかって」
ゴルジェイが腕を組んで笑いながら言う。
「それは俺のジョブが【レンガ職人】だからですよ。最初に説明したでしょ?」
「そうですけど……」
アヒムは納得のいかない表情だ。
「で、アヒムさん。このあたりの土地はどの辺まで畑にする予定ですか? ちゃっちゃっと壁で囲んでしまうので教えて下さい。あと、何人でもいいのでレンガ積み要員を貸してください。作業スピードが格段に上がるので」
アヒムは観念したように深く頷く。
「これから、第三開拓村にくる開拓民はどんどん増える筈です。ちょっと欲張ってもいいですか? 人は出します」
しばらくすると体格のいい男達が三十人ほど集まってきた。アヒムが息を吸う。
「お前達! マルスさんが森の木や岩を片っ端からレンガに変えるからそれを運んで積み上げるんだ!! 高く積めば積むほど、村の安全が高まると思え!!」
まだ始まったばかりなのに歓声が上がる。
「じゃあ、整地も兼ねてどんどん【レンガ作成】していきますね。レンガが程度の高さになったら俺が固定するので呼んで下さい。では、始め!」
直ぐ側にあった大木をさっとレンガにすると、男達がわっと群がった。何故かゴルジェイまで混ざっている。
俺は森を走りながら木や岩に触れ、軒並み木レンガや石レンガにしていく。それにまた、男達が群がる。何か競争しているみたいだ。
マルス領の城壁を作った時も大人数で作業をしたが、その時とは大分雰囲気が違う。
開拓民は自分達の村を作る! という強い意志をもっていて、生き生きと作業している。明るい未来を脳裏に描きながらレンガを運び、積んでいるのかもしれない。
「マルスさん! 固定お願いします!」
「こっちもお願いします!」
呼ばれた先に急いで行って、片っ端から固定していく。
「マルスさん! レンガが少なくなってきました!!」
「木レンガをお願いします!!」
嘘だろ……!? もうレンガなくなったの!?
この日は暗くなるまで俺とゴルジェイ、開拓民達は走り回るのだった。
#
「ちょっと冷静になると、やり過ぎだかもしれんな」
ゴルジェイがドワーフらしい顎髭を手で捻りながら言った。
「完全にやり過ぎましたね……」
村の代表、アヒムも苦い顔をしている。
「うんうん! もう村って規模じゃないわね……!!」
「ミャオミャオミャオ〜!!」
ローズとテトは自分達は関係ないからと楽しそうだ。
第三開拓村はその全てを十メルの壁に覆われていて、その中央には全てを見渡せる物見塔が建っている。俺達はその物見塔の上から完成した第三開拓村に目を細めていた。ただ、少しやり過ぎた──。
「ラストランドより広いかもしれませんね」
アヒムや開拓民達が未来を見据えて、とんでもなく拡張してしまった。現在は三百人いるかいないかの第三開拓村なのに、千人分の住宅と農地を確保出来る程になっている。
「まぁ、これからどんどん帝国からの亡命者が増えるかもしれませんし」
村の代表アヒムは帝国からの亡命者だった。それを頼って人が増えているようなのだ。
「わあ、水路見て! ちゃんと水が流れてるわ!!」
魔の森の北側に開拓村が作られた理由は水にある。魔の森の奥から流れる川が北側を通って海に抜けているからだ。その川に沿うように全ての開拓村は作られている。
ただ、これまでは人力で水を運んでいた。それを水車と石レンガの水路を使って農地に届けるようにしたのだ。作業効率が格段に増す筈だ。
「マルスさん。本当にありがとうございます」
もう何度目だろう。アヒムが俺に礼を言うのは。
「アヒムさん。これはただの交換条件です。魔花鉱石の採掘場所の情報との」
「そうでしたね。では明日にでも案内いたしましょう」
アヒムは物見塔の上から魔の森を見遣る。きっとその先にピンク色をした魔花鉱石が眠っているのだろう。
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