第22話 ローズからのお願い
「マルスちゃん! ちょっといいかしら……!?」
家の外から俺を呼ぶ声がする。確かめるまでもなくローズだ。こんな朝早くから一体なんの用だ?
仕方なくベッドから起きて窓から顔を出すと、赤い髪をふわふわさせながら、ローズが上目遣いでこちらを見ている。これは悪い予感がする。無理難題を言い出すに違いない。
「なんですか? ローズさん」
「……ムッ」
ローズが口を尖らせて固まってしまった。そうだ……。忘れていた。
「今日も可愛いですね。ローズさん。ところで何かありました?」
「マルスちゃん、花マルよ! で、一つ困ったことがあるの……。ちょっと出て来てくれない?」
お願いという体の命令。行くしかない。寝巻きのままサンダルを履いて外にでて、ローズの前に立つ。彼女は朝からきっちり髪を整えお洒落をしている。流石である。
「マルスちゃんに建ててもらったお家なんだけど……」
ローズの家は再建した俺の家──コボルトキングとの戦いで崩壊した──から五メルほど離れたところにある。俺の家と同じように円柱状の家屋にドーム状の丸屋根だ。
「何か不具合でもありましたか?」
「ううん……違うの。不具合じゃないけど、改めて見ると可愛くないの……!!」
可愛いくない? 丸屋根でめちゃくちゃ可愛いじゃないか……! 何を言っているんだ!?
「……どの辺が可愛くないんですか?」
「ズバリ、色よ!!」
ローズはピシッと自分の家を指差して宣う。
「色ですか……?」
「そう! 色!! 外壁は石レンガ、屋根は木レンガそのままの色……。ローズちゃん、もう耐えられないの……」
言わせておけばこの女ぁぁ……!!
「じゃあ、どんな色なら──」
「ピンクよっ!! ローズちゃんの家を全部まるっとピンク色にして欲しいの!!」
ピンク色……? そんな塗料見たことないぞ。これはもう、嫌がらせではないのか!?
「ローズさん。ピンク色は難しいですよ。そんな塗料は存在しないでしょ?」
「ローズちゃん見たもん! ラストランドの露店でピンク色の石が売ってたのを!! あの石をなんとかすればピンクのお家が作れるでしょ……!?」
先に言えよぉぉおおおお……!! もう家、完成しているだろうがよぉぉおおおお……!!
「どうしたのマルスちゃん? 肩が震えているけど、寒いの?」
落ち着け。落ち着くんだマルス。これは試練。俺に与えられた試練なのだ。これを乗り越えればきっと成長できる。できる筈。
「分かりました。とりあえずラストランドに行ってそのピンクの石を見つけましょう。入手経路が分かれば何か策が浮かぶかもしれません……」
「うんうん! そうだね! じゃあ、ラストランドに向かいましょう!! 早く着替えてきてね!?」
ローズの声に肩を震わせながら、家に戻り無言で着替える。
まだベッドで寝ていたテトが何事かと首を捻った。
「ちょっとラストランドに行くことになったよ。一緒に来る?」
「ミャオ」
テトはベッドから降りて俺のリュックに入る。そして口の部分からひょっこり顔を出した。
「さてと。行くかぁ……」
重たい足取りで家を出た。
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