第20話 論功行賞
マルス領の作戦本部跡にはコボルトキングの頭が晒されていた。それは黒焦げで、経緯を知らない者にはなんの魔物か分からないだろう。
あの日。コボルトキングは足元から突然生えた大樹に打ち上げられて宙を舞い、ローズの【フレア】によって倒された。その後、テトが首を刈って自分の手柄にしようとしたのはご愛嬌だ。
コボルトキングの討伐は成功した。しかし、冒険者側に被害が出なかったわけではない。新米冒険者が何人も命を落とした。
それでも、今回の作戦は大成功したと辺境伯には評されているらしい。それは言葉だけではなく。しっかり報酬として今回の討伐隊に参加した者に与えられる。
つまり、論功行賞が行われているのだ。
作戦本部跡には冒険者達が集まり、期待に満ちた目でボーワダッテ……を見つめている。既に第四功までの発表は終わり、俺の護衛や城壁での指揮を務めたザック、今も負傷者の治療を続けているチキが表彰されている。ちなみに、ローズは辺境伯側ということで対象外らしい。
そしていよいよ、第三功。
「第三功、【風魔術師】ブロウ!」
「はい!」
緑の髪に羽帽子の男が前に出た。
ブロウという名前だったのか。今回のコボルトキング討伐作戦において、偵察・伝令を一手に引き受けた男の働きは素晴らしかった。
「ブロウ君がもたらした情報により、討伐隊は適切な行動をとることが出来た。その功に対し、辺境伯から金百万シグが贈られる」
ボーワダッテ……の言葉に冒険者達がわいた。通常の報酬とは別に百万シグかぁ。確かに嬉しい金額だ。
「第ニ功、【首刈り猫】テト!」
「ミャオ!」
テトが俺の腕から降りてボーワダッテ……の前に出た。猫にどんな報酬を与えるつもりだ?
「テトはその能力によって、難敵であるコボルトジェネラルを葬った。コボルト達の戦意を奪う、素晴らしい一撃であった。その功に対し、辺境伯からマッドボアの干し肉が百頭分贈られる」
──ォォオオオ! と冒険者達から声が上がる。百万シグの方がいい気がするが、そうでもないのか? 冒険者の価値観は分からないな。そしていよいよ第一功──。
「第一功、【レンガ職人】マルス!」
「はい!」
ボーワダッテ……の前に出ると、冒険者達から視線が集まるのを感じた。それは決して嫌なモノではなく、どこか暖かい。
「マルス君はまさに討伐隊の要だった。君のスキルがなければ、今回のような戦い方は出来なかった。コボルト禍の被害を最小に抑えることが出来たのは君のおかげだ。その功に対し、辺境伯より金三百万シグが贈られる」
割れんばかりの歓声がマルス領に響く。
「ありがとうございます」
「もう一つあるのだよ」
ボーワダッテ……が意味あり気に髭を扱く。
「もう一つ……ですか?」
「どちらかというと、こちらが本題だ。このマルス領だが、辺境伯より正式に所有が認められた。本来、魔の森の土地は農地として開拓した場合にのみ、所有権が認められるのだが、特例がおりた」
うっ……。知らなかった。住んでしまえば勝手に自分のものになるかと思っていた……。
「ありがとうございます……」
「ただし!」
「ただし?」
「一つ条件がある。辺境伯軍の人員を一名、駐屯させること」
なるほど。お目付け役ってことか。やろうと思えばマルス領は簡単に広げることが出来る。辺境伯としてはそれは見過ごせないだろい。仕方がない。
「分かりました。受け入れます。で、どんな人が駐屯するのですか?」
──静寂。なんだ? なぜ緊張が走った?
「はーい!! ローズちゃんがマルス領に駐屯しまーす!!」
えっ……!?
「やっぱりマルス領の所有は認めてもらわなくていいです!」
「なんでよ!!」
ここは、上手く切り抜けなければ……。
「ローズさんは可愛過ぎます。だから俺は緊張してしまうのです。誰か別の人にしてください」
「うんうん! そーだよね! マルスちゃんは素直だな〜。でも、マルスちゃん家とは別の家を建ててくれれば問題ないでしょ? まさか、一緒に住むつもりでいたの?」
「そ、そんなことはありません……!!」
ボーワダッテ……がニヤニヤ笑っている。
「マルス君。辺境伯のご厚意だぞ?」
諦めろってことか……。ここで下手にゴネてマルス領が取り上げになるのは正直痛い。
「はい。わかりました……」
「決まりね!! マルスちゃんにどんな家を建ててもらおうかなぁ〜。楽しみ〜」
はぁ……。
「ミャオ〜」
俺の腕に戻って来たテトが、憐れむように鳴くのだった。
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