第6話 屋根

 屋根にも色々ある。


 一番簡単なのは平屋根である。床を張るのと同じように、水平だけを意識してレンガを並べ、隙間なく固定すればいい。水捌けだけ考慮すれば、なんとかなるだろう。


 次は三角屋根だ。正面からみて三角になるようにレンガを積めばいい。屋根裏の空間を工夫すれば生活の幅も広がるかもしれない。


 方形屋根もいい。何処からみても均整が取れていて気持ちいい。レンガを積むにもイメージがわきやすく、失敗もないだろう。


 しかし……! 俺が挑戦したいのは違う。せっかく初めて建てる家だ。マルス領を象徴するようなものにしたい。


 そこで! 俺が選んだのは丸屋根である。


 今建てている家の壁は丸い筒のようになっている。これに、ドーム状の丸屋根をつけるのだ。


 俺の知る限り、ミスラ王国にこのような屋根の建物はない。きっと難しいからだろう。


 ならば……! 俺がやってやる。【レンガ職人】のジョブを全力で活用して成し遂げる。


 と、拳を握って意気込んでいるのを、テトは冷めた目で見ていた。どうでもいいから、さっさと屋根を作れと……。


「丸屋根を作るには今の木レンガだと大き過ぎる気がしない? 上手く丸みを出せないと思うんだ」


「ミャオミ?」


「そう。丸み。だから屋根専用のレンガを作らなければいけない」


 そう言って俺は歩き出す。マルス領から出て、この辺で一番大きな木の前に立つ。手を当てて、イメージする。小さな、手のひらに収まるサイズのレンガを。そして──。


【木レンガ作成】


「成功だ!」


 イメージ通りの小さな木レンガがピシッ! と地面に並んでいる。これを使えば綺麗な丸みを表現出来る筈だ!


「よーし! 作業開始だ! 今日中に屋根を作ってしまうぞ!」


「ミャオ!」



#



「全然終わらねぇ〜」


「ミャオ〜」


 丸屋根恐るべし。もう夕方だというのに一割も終わっていない。少しレンガを小さくし過ぎたか? しかし、これぐらい小さくないと綺麗な曲線を描けない。


「ごめんテト。今晩も屋根なしだわ。星空を見ながら眠る事になる」


「ミャオ」


 壁をつたって屋根建築現場に来たテトが、「気にするな」というように俺の肩に前足をのせた。


「ミャオ」


「えっ……? 何?」


「ミャオ」


「なになに分かんない?」


 と、いうやり取りをしている間に俺の腹が鳴りテトの要求もわかった。夕飯をつくれ! ということらしい。テトは猫の癖に調理した食べ物が好きなのだ。


「そういえばもうすぐマッドボアの干し肉もなくなるなぁ。明日は狩もしないと」


「ミャオミャオ!」


 任せろ! という感じで木のレンガに爪を立てる。やる気らしい。


「なら、狩はテトに任せるよ。調理は俺がやるから」


「ミャーオ〜」と鳴いてテトは屋根建築現場から降りていく。


 俺も降りて夕飯の準備だ。


 テトが飽きないように今後は調味料も揃えないとなぁ。その為にはお金も稼がなくては……。


 やる事は山積み。が、しかし今は夕飯。次は屋根。


 ゆっくり進めよう。時間はいくらでもあるのだから。

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