第5話 家

「テト。そろそろ家を建てようと思う」


「ミャオ?」


「そう。家だ」


 テトはなんで今更? というような顔を俺に向けている。


「実は、【レンガ職人】のジョブのレベルが上がったらしい。頭の中に浮かびあがるスキルが増えているんだ!」


 熱弁したが、テトには伝わっていない。しらけた瞳で俺を見ている。


「ちょっとついて来てくれ!」


 そう言ってマルス領から出ると、ゆっくりとした足取りで面倒臭さそうにテトはついて来た。


「今まで俺がレンガ作成の材料にすることが出来たのは石とか岩だけだった。しかし! 新たに獲得したスキルで、その材料の幅が広がったのだ!」


 そう言って大木に手を触れる。そして──。


【木レンガ作成】


 一瞬光に覆われ、それが収まると地面に膨大な量の木レンガが整然と並んでいた。


「ミ、ミャオ……!?」


「どうだ! 驚いたか!」


 テトは木レンガを興味深そうに前足で触っている。


「石レンガに比べて木レンガは遥かに軽くて作業しやすい。そして何より、材料がいくらでもある! マルス領は今後は外壁を石レンガ、建物は木レンガで作ろうと思う!」


「ミャーオオ!」


 テトも賛成らしい。


「方針が決まればとりあえず領地を広げよう。せっかく家を建てるならある程度広くしたい」


 今は直径二十歩の円形の領地だが、とりあえず直径四十歩まで広げよう。幸い、【木レンガ作成】スキルを使えば邪魔な木は一瞬で木レンガになる。いちいち伐採する必要はない。


 俺は領地予定地の木を軒並み木レンガに変えていく。


 ジョブ【レンガ職人】の凄いところは、どのスキルもほとんど体力を消耗しないところだ。連続してスキルを使用しても、身体にはなんの影響もない。とても効率よく作業を進めることが出来る。開拓民としては最強のジョブなのでは……!?



 作業が進むにつれて空が大きく開けて陽の差し込む範囲が広くなった。とても気持ちがいい。


「よーし、次は外壁だ! これは大変だぞ!」


 木レンガの上で日向ぼっこを始めたテトは薄く目を開け、小さく鳴いた。


「もうちょっと応援してくれてもいいんじゃない?」


 ……反応なし。仕方ない。


 俺は【石レンガ作成】と【レンガ固定】を繰り返し、陽はやがて暮れた。そんな生活を三日ほど繰り返し、やっとマルス領の拡張工事は終了した。そしていよいよ、家作りだ。



#


「普通、家を建てるには地面をしっかり固めるところから始めるんだ。硬い杭を地面に何本も打って土台を作る。そこからやっと家作りが始まる。しかし──」


「ミャオ?」


「レンガ固定のスキルにはそれが必要ない。俺が固定したいところでスキルを使えば、空中にだって足場を作ることが出来る。だから、これから建てる家は少しだけ地面から離して建てようと思う」


「ミャオ?」


 当然、テトは分からないという顔をしているが、構わない。そもそもこれは独り言みたいなものだ。


 元々、テントを張ってあったところに一つ目の木レンガを固定する。記念すべき第一投。そしてその横にもう一つ、半分ずらしてレンガを固定する。


 幼い頃にやった積み木のような感覚で、あっという間に床部分が出来ていく。そして、元々のマルス領の部分が丸っと木レンガで覆われた。


 もう、これに屋根をつけてしまえば暮らせるだろう。しかし、内装はゴツゴツした石レンガより温かみのある木レンガにしたい。


 窓用に一部の石レンガを崩しながら、その内側を木レンガを積み上げていく。木レンガの軽さに感動する。石レンガに比べて何倍もの作業効率だ。


 そして一日が終わる頃にはすっかり内壁が出来てしまった。あとは屋根だけ。


 石レンガの壁がぐるりと巡り、その中に木レンガの内壁がある。外から見ると石レンガの家。中にはいると木のいい香りが漂っている。


 床にごろんと寝転ぶと、開けた空に星が見えた。まだ寒い時期ではない。今日は星を見ながら寝よう。


 毛布を取り出して包まっていると、さっきまで何処かに遊びに行っていたテトが近寄ってきた。毛布に頭を突っ込み、俺の腹の辺りで丸くなる。


「ここが新しい家だよ。どう?」


「ミャオ」


 気に入った。と言ったような気がする。


「明日には屋根をつけよう。そうすれば雨も平気だ」


 テトは喉をゴロゴロと鳴らして応える。どうもご機嫌らしい。


 その音を聞きながら、俺は瞼を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る