第2話 襲撃者
「……ギ……ギ……」
「……ギャ……ギャ……」
「グギャギャギャ、グギャ」
テントの外が騒がしい。一体何事だ?
被っていた毛布を退けてテントから出ると、その声がはっきりとする。これはモンスターだ。モンスターがマルス領の外壁の周りに集まっているみたいだ。
突然現れたレンガの建造物に驚いているのかもしれない。
俺は余っていたレンガを空中に固定し、階段を使って外壁の上に登る。そして見えるのは──ゴブリンだ。二体のゴブリンが外壁を叩いたり触ったりして何やら相談している。
マルス領への襲撃者だ。撃退しなければ……。
俺はそっと外壁から降り、余っていたレンガをもって再び外壁の上に。よし、こちらには気がついていないな。レンガをもって振りかぶり──。
ビュン! とレンガが風を切る。そしてゴブリンの頭に見事命中した。もう一体は突然倒れた仲間に驚き、おどおどしている。
ビュン! ともう一度レンガが風を切り、ゴブリンに当たる。二体は折り重なるように地面に倒れている。
「よし! 防衛成功!」
外壁入り口のレンガを崩し、ナイフをもって外に出る。
慎重に近づくが、ゴブリンが起き上がる気配はない。死んだか、完全に意識を失っているのだろう。
「悪いが、止めをささせてもらう」
二度、ゴブリンの首にナイフを滑らせ完全に息の根を止める。そして胸元を抉って魔石を取り出した。小指の先程の小さなものだが、これでも大銅貨一枚、つまり安いパンと同じくらいの価値がある。無一文のおれにはありがたい。
「しかし腹が減ったな。ゴブリンの肉は臭くて食えたものじゃないっていうし、山菜でも集めるか」
この魔の森までの旅路で俺は随分と成長した。何も知らない侯爵家の息子だったが、冒険者や開拓民から様々なことを学んだ。
ゴブリンの魔石の位置は冒険者に学んだものだ。肉は臭くて食べられたもんじゃないって知識も。
食べられる植物の話は開拓民からだ。冒険者と違って彼等は荒事が苦手だ。魔物を倒して食べるなんてことはあまりしない。その代わり、自然に生えていて食べられるものを集めるのが得意だった。
「おっ、不滅ダケ! これは嬉しい」
一見すると緑色でドクドクしいきのこだが、不滅ダケは食べられる。そして名前の由来になっているように回復力が凄まじいのだ。カサの部分だけ採って放置すると、一晩で再生する。まさに不滅。
「おぉ、これも食べられるやつ」
先がクルンと丸まった山菜、ワナビが群生している。大きく育ったやつは癖が強いが、小さなものは湯がいてアクを抜くと美味しく食べられる。
「あっ、これも──」
次々と見つかる山菜に俺は嬉しくなり、俺は両手いっぱいに抱えてマルス領に戻った。
そしてレンガでかまどを組んで、鍋を置く。水は貴重なので、底に少し。不滅ダケと山菜を山盛りにして、薪に火を付ける。
山菜のいい香りが腹を刺激して、「ぐぅ」と鳴った。粗方火が通ったところで、フォークに山菜を絡めてそのまま頬張る。
なんの調味料も加えていない、素材そのままの味。不滅ダケからいい味が出たようで、山菜の甘味に奥行きが生まれている。
肉厚な不滅ダケにフォークを突き刺し、口に入れて噛み締めると一気に旨みが広がった。「キノコ類は魔素の濃いところでは旨みが増す」なんてことを開拓民は言っていたが、本当らしい。
この魔の森で採れるキノコはミスラ王国で一番美味しいのかもしれない。明日からはもっとキノコを探そう。
食事を終え、一息ついたところで俺は大事なことを忘れていたことに気が付いた。それはゴブリンの死体だ。マルス領外壁のすぐ側に置きっぱなし。これはマズイ。他の魔物を引き寄せてしまう。なんとかしないと。
しかし、ただ穴を掘って埋めるのでは芸がない。何か有効活用は出来ないものか……。
「これは……いけるかもしれない」
俺は自分の思い付きに歓喜した。そして早速、取り掛かるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます