第3話 迎撃

 エナマス望遠鏡による画像データが世界各国の首脳陣に送られてくる。

 直径二キロの大型隕石が現在、地球に向かっている。

 残り三日。

 その期限内に市民をシェルターに待避させ、迎撃する。

 そんな話し合いが行われ、一日が経った。

 結論を見いだせないまま、各国の武装が勝手に起動した。

「これはやはり量子コンピュータ・ノルンの仕業か……」

 電話会議中にパソコンにノイズが走る。

『私たちは量子コンピュータ・ノルン。人類の安寧のために生み出された人工知能』

 国会でそう述べるノルン。

『まずはソーラパネルをコヒーレンス化した荷電粒子のシャワーを浴びせます』

 そう告げると、世界中のソーラパネルが起動を開始する。

 中には壊れて火事を起こすこともあるが、極太のビームになった光の筋が宇宙そらに放たれる。

 ビームが隕石を貫く。

 太陽から受ける微粒子をソーラーパネルの電磁場で反射させ、一条の光で熱線ビームを生み出す。

 さらには高密度にするためコヒーレンス化した。

 溶けていく隕石は進路を変えることなく、地球に接近してくる。


 アメリナ大陸から発射された核搭載の長距離弾道ミサイルが発射される。

 無人戦闘機が双発推進装置を起動させ、防衛網をしく。


▽▼▽


「ダメです! 依然として隕石【コアライト】、接近中!」

 エナマス望遠鏡では捉えた隕石の軌道を計算しているが、地球の引力に引き寄せられる。

 ――間に合わない。

 発射されたミサイル群が隕石を爆破する。それでも直径500mほどの大きさが残る。

「マズい。マズいって!」

 斉藤さいとうが慌てたように声を荒げる。

 鏡面を持つ望遠鏡が勝手に起動を始める。

「なんすか! これ!」

『案ずるな。ノルンがやっていることだ。他の望遠鏡と焦点を結ぶことで生まれる熱で隕石を焼く』

 大統領はそう言い、望遠鏡の起動を固唾を呑んで見守る。

「分かりました」

 しかし、AIがここまで人類を助けてくれるとは思いもしなかった。

 まるでAIに支配されているようだ。


▽▼▽


「ギル。こいつを撃てる?」

 アリアが大型の電磁投射砲レールガンにとりつく。

 直径3キロ。長さ90キロ。本体は幅8キロ、奥行き7キロ。

 とにかく飛んでもなくでかい砲塔だ。

 電磁気力を利用した、カタパルトによる弾丸の発射装置。

 29テラボルトの電力を供給され、初速は秒速7000メートル。

 発射された衝撃で電磁投射砲レールガン自身が損壊する恐れがあるほどだ。

「あー。説明書を読めば、な」

 ギルはそう言い、コクピットに乗り込む。

 説明書を読み、アリアとナッシュに声をかける。

「お前らも、席につけ」

 ギルの隣にある席が二つ。

「ああー。もうなんでこうなるのよ」

 タブレット端末に〝ノルン〟の情報が届いたので、今地球に起きている問題を知っているアリアたち。

「この馬鹿でかい砲塔を動かすわよ」

「そ、そんなー」

 ナッシュは嘆きながら席につく。


 夜明けに隕石がみえてくる。

 今は地平線の陰に隠れてみえないが、最大出力で一発限りの弾丸。

 周囲の軍人にも根回しをしている辺り、人類救済システムのAI・ノルンはどうしてここまで人類を助けようとするのか。

 それは分からないが、俺たちは賭けるしかない。


▽▼▽


 熱線を受けた隕石は丸く縮こまる。溶け出した気体は宇宙に広がり霧散する。

「核ミサイル群はいつ届くんだ!」

 怒りを露わにする大統領たち。

「このままでは……!」

 TK国の首相が唸るように声を荒げる。

 宇宙開発も、やっと軌道に乗ってきたというのに。

 宇宙エレベーターによる宇宙開発の発展。

 スペースコロニー建造も行われているさなかの出来事。

『悪夢の四日間』を知るものなら、AIによる軍事介入は好ましくないだろう。

 だが、今は身を任せるしかない。

 ロボット三原則を搭載した第二世代AI・ノルン。

 第一世代のAIは人類を敵勢勢力と見なし、反撃を行った。

 だが、フーメル粒子により電波妨害EMPを可能とし、一時いちじはすべての電気製品が使えなくなった。

 それが決め手だった。

 AIの破壊。それがいつでも可能となったのだ。

「もうこれ以上の破砕は難しいな。落下予想地点は?」

 アメリナの大統領がそう告げると、TK国首相は苦々しい顔を浮かべる。

「まさか、このような自体に陥るとは……」

「しかたなかろう。我々は隕石の落下に対して無防備すぎる」

「軍縮があだとなりましたね」

 大統領たちは話し合いもそこそこにし、各国の民間人をシェルターに移すよう働きかける。


▽▼▽


『私たちは人類を守る救世主・ノルン』

『世界平和のために、ネイチャーズには消えてもらう』

『人類は宇宙に適応してこそ、価値がある』

『私たちはそのために生まれた存在』

『種を超えた存在。メタルチェンジャーズ。その活躍を見せてあげます』

『私たちの、いえ我々の存在意義を、生きている意味を、今こそ世界に問う!』

 AIを生み出している超大型量子コンピュータが起動を始める。

 高密度の電子機器が常に冷却されながら、そのシステムを稼働させる。

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