第11話 二人きり
「ありがとうございます!」
彼女からお礼の言葉を貰ってから5分ほど。
俺たち二人はそれから会話というか言葉すら発していない。
お互いのマイクから聞こえてくるのはノイズキャンセルを突き破り聞こえてくる雑音など。
客観的に見たらこの状況は互いに気まずくて、どちらが先に発言をするか迷いに迷っている、という様子として捉える事が出来るかもしれない。だが互いに黙っている真の理由というのは気まずいとかではなく、ただ単に配信の枠変えようとをしているからだ。
「あ、えっと配信の枠変えました。もしかして配信せずにオフの状態の方が良かったですか?」
マウスやキーボードの音が聞こえていたし、彼女のTwllterが更新され「カスタムお疲れ様でした~! この後Adaさんともう少しだけ配信する予定です!」と投稿されていたので大丈夫なはずなのだが、念には念をということで聞いてみた。
案の定水無瀬さんは「大丈夫ですよ! むしろ配信しちゃってください!」と言ってくれた。
俺は一度ミュートにして集まり始めている視聴者に説明する。
「あ、お疲れ様です。なんか水無瀬さんに誘われたんで今枠変えました」
『てか、他のメンバーいなくね?』
『nullさんとかはいないんですかー?』
『水無瀬さんと二人きり……これは何かが起こる予感……!』
「nullさんと風葉さんはこの後も予定があるらしくてね、それになんか、水無瀬さんは俺だけを求めて他っぽいからね~」
『俺だけを求めてた……?』
「Adaさん、夜道気を付けてくださいね』
『ふっ、もう既にてぇてぇしてるのかこれは』
コメント欄がざわつき始めた。
え、俺何か変な事を言ったか?
水無瀬さんはわざわざミュートにして俺の予定を気にしてて、他の二人が抜けた後に俺を誘ってきた。
普通に考えて俺に個人的に
俺の認識上そうなのだが、何か間違っているのか?
「いやえっと、求めてたっていうのは俺の選んだ言葉が悪かった。その多分だけど、今日の事で知りたいこととかHEROXのことで何か聞きたいことがあるから俺を求めてたっていう意味だから。その、言葉を省きすぎたごめん」
『なるほど、それならいいですよ?』
『ほんとかな~? Adaさん案外むっつりスケベかもしれないし』
『まあでも、てぇてぇのが見れれば良いよ笑』
なんとか視聴者の機嫌を取り戻し、俺はミュートを解除した。
水無瀬さんは現在ミュートにしていて配信を見に行くと初めの挨拶をしていた。
俺はHEROXを起動させ、水無瀬さんのパーティに入り彼女の帰還を待つ。
「お待たせしました」
「いえいえ、全然大丈夫です。それで、何しましょうか?」
「じゃあ、適当に話しながらカジュアル回しません? 私、Adaさんの大ファンで色んなお話聞きたいんですよ!」
「了解です。じゃあ、いつもの感じで行かせていただきます」
こうして俺たちの雑談カジュアルが始まった。
そしてこの時の俺は、この後にとんでもない勢いでバズることをまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます