第3話 Vtuber

 『しずくちゃん!? Adaあださんと何の関係があるんですか?』


 Adaさんとは俺の活動名で由来とかは特に無く、適当にひらがなで二文字で語呂が良くカッコいい名前にしたいなと思いAdaとなった。

 4KAGIやG4siinとパーティを組み始めてからはリーダーと呼ばれているため、今となっては愛称のような物になっている。

 別にリーダーじゃなくても良いと言っているのだが、二人は「いや、リーダーはリーダーなんで」と口を聞かないため、俺の名前がリーダーだと思っている人は少なくはない。


 「いやなんか、DM来ててさ、仕事の依頼かなって思ったんだけどコーチングしてくれませんか?って来てた。コーチング以前に誰か分かんなくて名前出させてもらった」


 『なるほど、その子今人気が出て来てるVtuberですよ!』

 『クールなAdaさんと活発なしずくちゃんの絡みは見てみたいかも!』

 『こりゃ、てぇてぇが見れそうだな……』


 てぇてぇだのなんだの知らないしVtuber自体、俺は何かをあまり知らない。

 俺の認識上、Vtuberとは絵が喋っているだけだと思うのだが、あまりこういう事を言うと炎上するので言葉には出さない。

 しかし、チームに所属していない無職ニートになったからこそコーチングなんてものも出来るのか。

 案外面白そうだし、色んな人との絡みも増やしていきたいからアリかもしれないな。


 「おいっす、帰宅しました」

 「あ、自分も帰ってきました。リーダーは?」

 「ん、いるぞ」

 

 「ほんじゃ、いきますか」

 「うい~」

 「次自分ヴォイド使っても良い?」

 

 「お、リーダーのヴォイド久々っすね」

 「じゃあ自分ヴォイドやめて、ポイメルで」

 「おけ、んじゃ頼みまーす」


 俺はコーチングの件を頭の片隅に入れ、再度ランクマッチを開始した。


 ~~~


 「いや、流石に疲れた」

 「今日だけで20位ぐらい上がってるでしょ」

 「だな、開始と比べて1000ポイントぐらい盛れてる」


 現時刻は18時、一度外の空気を吸おうと防音室から出た時があったがその時でも空はオレンジ色になっていた。

 配信開始から10時間が経ち、全員疲労もピークに達していたため配信は終わりを迎えようとしている。

 全員が一度ミュートをし、締めの挨拶をする。


 「自分、枠閉じてきました。明日は何時にします?」

 「自分明日16時から予定あるんで、それまでには終わりたいですね」

 「G4siinに予定!? 珍しいね」

 

 「いやいや、そんなに驚かなくても」

 「なにさ、何があんのさ?」

 

 「実はVtuberからコーチングを頼まれてまして……」


 G4siinもVtuberからコーチングを頼まれていたのか、少し興味深いな。


 「マジか、なんていう人から頼まれてんの?」

 「妃咲楓ひさきかえでっていうVtuberからなんですけど、昔案件で一回絡んだことがありまして、その縁で連絡くれたって感じですね」

  

 「うぇ~、俺の所には来てないけどなあー」

 

 4KAGIには来ていないのか。

 ここで俺が「俺にも来てるよ?」みたいなことを言ったら4KAGIの配信のモチベ低下につながるかもしれないと思い俺は話題を出すのをやめた。

 正直、G4siinに個人で連絡すれば詳しい話を聞けるかもしれないが、G4siinが口を滑らして4KAGIに伝わってしまう可能性もある。


 少しの間一人で考えて、話がまとまらなかったらG4siinを頼る事にしようと決めた。


 「んじゃ、自分落ちますわ」

 「それじゃあ自分も」

 「うっす、お疲れ。明日もよろしくー」


 二人がサーバーから落ち、俺だけになったので俺も落ちた。

 既読スルーになってしまっていたDMを開き、俺は視聴者に言葉を投げかける。


 「コーチングの件だけど、視聴者の皆は俺と水無瀬さんとの絡み見たい?」


 するとコメント欄は今までに見たことないぐらいのスピードで流れ始め、瞬く間に『見たい!』という文字で埋め尽くされた。

 満場一致の回答を貰った所で俺は水無瀬さんに『大丈夫ですよ、いつにしましょうか?』というメッセージを送った。


 「今了解の連絡を送った。絡みは見れるか分からないけど予定が決まったら連絡します。ほんじゃ、俺も落ちますわ」


 『お疲れ様でした! しずくちゃんとの絡み楽しみにしてます!』

 『お疲れ様でした』

 『お疲れ! 水無瀬さんの事予習しておきます! 絶対絡んでください!』


 俺は配信終了のボタンを押し、彼女のチャンネルを覗きに行った。




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