陰キャのJK、異世界に転生する。

にゃんな

第1話

「刈谷さんってマジでなんも話さないよね〜w」

「ちょっとボリューム下げようよ、可哀想だよw」

クラスの中心に立っている南野みなみの湊川みなとがわが私の方を見て言った。

歌詞は陰口だったが、最近は表で言ってくるようになってしまった。

誰も止めようとしない、残念ながらこれが現実だ。

クラスの女王様に逆らったら輪から追放される。一部のクラスメイトを除いて全員が平民なのだ。

「南野、湊川、刈谷嫌がってるだろ」

とクラスのカーストトップで全校的に人気が高い久喜くきが言った。

今日も偽善活動お疲れ様ですという内心は胸の中にしまって、

「…ありがとう」

とお礼を言う。これが何回も繰り返されている。

現実で私と同じ目にあっている人たちには申し訳ないが、これも現実なのだ。


人間という生物は人の不幸を喜ぶらしい。

それから生まれた言葉は、『人の不幸は蜜の味』。

そんな言葉を建前にただただ自分に快楽に向かってつきすすんでいくにんげんと、誰が普通に会話をするものだろう。

時間の無駄とはこのことではないだろうか。


「…………」


(とかそういうの思ってるわけじゃないんですけどね!!!!!!!!)

高校入学時に

「あ、意外と陰キャ生活いけそう」

とか思ってしまった自分を心の底から憎みたい…!

中学卒業後、優等生だがコミュ力0という最悪なステータスをなんとかしようともせず、調子に乗って県外進学校へと進学。

その際お金に余裕があったため一人暮らしを開始。

そして友人0、頼れる人0、楽しめるもの0という最悪な生活が始まった。


最初は割とこの生活を楽しんでいた。

というか今まで勉強づくしで暇という時間を過ごしたことがなかったため、この時間を満喫していた。

そして人間関係の構築を諦め勉強に全振りして早2年。私は高校2年生。いわゆるJKの中盤へと差し掛かっていた。

クラス内で続く陰口、できない彼氏と友人。

そんな中でも頑張れたのは、母からの応援があったからだ。

「お母さん、あんたのこと心配してるからね、」

その一声で頑張ってきたということだ。

自分で考えても哀れだなぁと哀愁を漂わせてしまう。


しかしいくらその一声があったとしてもきついことはきつい。

「はあ゛〜〜〜…」

まるで残業後のサラリーマンのような声を出して近所のコンビニに向け歩く。

え?なんでかって?

そりゃカップ麺切れちゃったから。

自炊とかする人なかなかいないって…どうせ一人暮らしのJKはこんなもんだよ

え?そうだよね

「まあもうちょっとしたら花開くって」

声に出して言うと、ふと鏡に自分に顔を向ける。

一言で言うと、容姿はいい方…だと思う。

メガネを掛けているからおそらくみんなには見られたことはない。

いわゆる隠れ美人というやつだ。コンタクトレンズはお金がかかるため避けている、これが現実なのだ。


「…!」

どのカップ麺が1番安いかと値札を見比べている時、私に視界に入ってきたのは久喜だった。

(あ、やべこれ終わったわ…でもメガネかけてないからバレないか)

メガネをかけている人間とかけていない人間はかけ離れている。しかも今学校と髪型も服も違うし。だいじょぶだいじょぶ。

「98…昨日は96だったのに」

油断して出たその一言が、ダメだったようで。

久喜がこちらに声に気づいたのか私に視線を向けてくる。

「刈谷…?」


(はいバレました終わり〜あははは)

なんていうことを思っていたら地獄とかいうものでは済まなくなるのでにっこり笑顔を作って応答する。

「…?あ、久喜くんか、気づかなかったぁ」

「め、珍しいねメガネ外してるなんて」

(いやお前の前で外したことないから珍しいどころではないが)

「そうかな?私用事あるしもう行くね」

人間の二面性とはこのことだろう。

よくわかんないけどとりあえず早めにこの会話は終わらせたい。

「ま、まって、あの…さ。

 俺すぐ買い物終わらせてくるからちょっと話さない?」

(うわめんど…)

「刈谷今日夜ご飯ないんだろ?よかったらうちくる?」

(これが飯だが?え、マジで一人暮らしJKって自炊してんの?マ?)

「…」

私は少し沈黙に時間を与える。

「わかった!待ってるね!」

そう。今は真冬である。外には雪が降っており極寒。

どう出る、イケメン王子。ちなみに私なに言われても外で待つから。

「え、外寒いし…ちょっと待ってすぐ終わらせる」

(うわぁイケメンイラつく◯ね)

その言葉を使ってしまった罰当たりだろう。次の瞬間のことだった。

ドガンッ!という音がして、巨大トラックが店内に突っ込んできたのだ。

「刈谷!!!!!!!!!」

(ということで良い子のみんな!汚い言葉遣い、殺傷表現をする時は十分気をつけようね!)


そこで私の意識は途切れた。

お母さんへの感謝を伝えられず、あのくそ陽キャどもに仕返しもできず一生を終了する…

なんてことにはならなかった。





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