第79話

 俺の飛び蹴りを躱し俺の父さんの影がすぐさま反撃をした。 

 正拳と掌打が交差する。

 俺が即座に放った正拳が掌打を過り父さんの影の頬を抉る。

 父さんの影の放った掌打が俺の腹部を捉えた。


「うぎっ! う……痛い。眩暈が……。キツイ……。いつかきっと、父さんの影をあふんって言わせてやるぜ!」

「おにいちゃん。それを言うならぎゃふんだよー」

 

 我が妹がいつの間にか父さんの影の背後に回っていた。

 ズゴンッと派手な音が辺りに鳴り響く。


「ガッ!」

 父さんの影がその場で崩れ落ちた。


 妹よ。そんな技を人間相手に使っていいのか……?


 我が妹が父さんの影の延髄に強烈な肘打ちを数発も打っていた。

 普通の人ならもう死んでる。

 凄い技を何の躊躇もしないで……使ってるんだな。

 多分、猛スピードの技ばかりの速度重視の技だ。

 

「これがおじいちゃん譲りの心光流!」


 おじいちゃん……絶対に教えちゃいけない奴になんて技を……。


 心影流も要は目で相手の動きを見る。

 相手の動きが目にも止まらないなら……防げないんだな。

 ボケが始まってきたおじいちゃんが、妹に心光流をにこやかにふらふらと教えている姿が俺には容易く想像できた。

 

「あれれれ?」

 妹の影が急に首をかしげる。

「影斬りの刃が……ないよ。おにいちゃん?」


 キッチンテーブルの隅を見ると、そこにあったはずの父さんの椅子の上の影斬りの刃がいつの間にか忽然と消えていた。

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