第二章 Part5

「アスタ、元気かな」


「…アスタさんなら、きっと大丈夫だよ」


「…そう、だよね……!」


ユキは急に立ち止まった。


「ん?急にどうしたの?お姉ちゃん」


気になり声をかけるミユキ。そしてユキの視線の先をミユキも見ると、思わぬ人物がいた。


「っ!?」


「お母さん」


そう、視線の先にいたのは、ユキとミユキの母親である、美智瑠が歩いてきていたのだ。


「…ん?…!結生(ユキ)、美雪(ミユキ)」


「お母さん」


「こんな所で会うなんてね」


美智瑠が何故こんな所にいたかと言うと、裁判に至る前に、ユキとミユキがいなかった為、証拠不十分という事で、美智瑠は釈放となっていたのだ。


「…そうだね」


「美雪…」


美智瑠がミユキの名前を呼び、手を伸ばした途端、ユキはミユキの左側にいたので、右手をミユキの前に出し、ミユキを守る姿勢をとった。


「…そうよね、私にそんな資格なんて、あるはずがないわよね」


美智瑠はそう言うと、肩にぶら下げていたカバンから、ある物を取り出した。


「…!?」


それは、折りたたみ式のナイフだった。


「私には、生きている資格なんて」


そう言うと美智瑠は、自分の喉めがけて、ナイフを刺そうとする。それを見ていたユキは、猛ダッシュで美智瑠の元へと行き、美智瑠の手を止めた。


「何よ結生、何で、何で止めるのよ」


「お母さんこそ、何のつもり、こんな事して」


「…言ったでしょ、私には、生きている資格なんて」


「生きることや死ぬ時の権利や資格なんて、一個人が勝手に決めることじゃない。生きている資格がない、そんな言葉で、現実から逃げちゃダメだよ、お母さん」


「でも、私は」


「確かにお母さんは、決して許されない事をしてしまった。その事実は変えられない。でも、それでも、その事実と向き合って、これから生きていかなきゃいけない。前を向いて、だから、こんな物はボクに預けてさ、前を向いて生きよう、お母さん」


ユキは美智瑠が握っていたナイフを取り、ユキのポケットにしまった。もちろん、そのナイフは、後で捨てる為、ユキが美智瑠から取ったのだ。


「お母さん、ボク、いずれは児童養護施設から卒業して、美雪と二人で一緒に生きていく」


「!?」


「(ホントは、三人で一緒に暮らしたかったけど)」


ユキの言う三人目とは、アスタの事である。だが、今のアスタの状態をよく分かっていない為、ユキはアスタを数に入れるのを止めた。


「だからお母さん、お母さんも、これから前を向いて、精一杯生きてね」


「結生…」


「…じゃあ、ボク達はもう行くね。行くよ、美雪」


「う、うん」


「…」


ユキは母親である、美智瑠にそっと心配よりの笑顔を返すと、ミユキを呼び、二人は児童養護施設へと帰って行った。


「…(結生、それに美雪、ホントにごめんなさい、私は、罪を背負って、頑張って生きていくわ)」


二人が通り過ぎた後、美智瑠は心に、これから精一杯生きていくと誓った。


次の日、この日も、ユキ、ミユキ、サオリは、特別チームによる事情聴取を受けていた。


だが、特別チームは、児童養護施設の施設長から、この事情聴取を、明日いっぱいで止めてもらうよう申請した。施設長は、せっかく帰ってきた彼女らの精神状態を気にし、あまり負担をもたせたくなかったのだ。


特別チームもそれを了承し、明日いっぱいで、事情聴取を取りやめる事を決定した。そしてその日の事情聴取が終わり、三人は話していた。


「あー、今日も疲れたぁー」


「ふふ、もう、ユキちゃんたら」


「私も疲れました」


「ミユキちゃんも、でもそうですね、実を言うと、私も疲れました」


「皆疲れたね。話をするだけなんだけど、長いんだよね」


「そうね、ユキちゃん」


「でも、それも明日で終わりなんですよね?」


「そうみたいですね」


「長かったような、短かったような、あ、ジュース飲もー」


「あ、私も」


三人は歩きながら話していたので、自動販売機を見つけると、ユキは迷わずジュースを買い、それに続いて、ミユキもジュースを買い、三人は椅子に座って話すことにした。


「それにしても、十八年も向こうの世界にいたのに、こっちの世界じゃ一日しかたっていないなんてね」


「そうね、私達、そんなに長い間、向こうの世界にいたんだもんね」


「うん(ホントなら、アスタも)」


「?お姉ちゃん?」


「あ、ううん、なんでもない」


「もしかして、アスタさんの事?」


「…うん、どうしても、考えちゃって」


「(お姉ちゃん…)」


「(ユキちゃん…)」


「二人共、心配しなくても大丈夫だよ。きっとアスタは帰ってくる、ボクはそう信じているから」


「そうね、二つの世界を救ってくれた英雄だもんね。きっと帰ってくるわ」


「ありがとう、サオリちゃん」


「ううん、私もユキちゃんとミユキちゃんが信じてるそのアスタさんって人、信じてるから」


「そっか、そう言ってくれると嬉しいな。…じゃあ、そろそろ行こっか」


「そうね」


「うん」


ユキとミユキは、缶ジュースを飲み終え、ゴミ箱に捨て、その場を後にした。そして、そんなユキ達を、角に隠れながら見る怪しい人影。そして、夕日がさしている中、児童養護施設へと帰っているユキ達。そんな中、ユキのスマホに、一通のメールが届いた。


「ん?…!?」


メールの内容は、「今から僕の指定する公園まで来てください。アスタ君を救えるかもしれない」という内容だった。


「ん?どうしたのお姉ちゃん」


「どうかした、ユキちゃん」


「ううん、何でもないよ。二人は先に帰ってて、ボクちょっとまた喉渇いちゃって、ちょっと行ってくるね」


「あ、ユキちゃん」


「お姉ちゃん、どうしたんだろう」


「…」


ユキは、二人を先に帰らせ、一人で指定された公園まで向かった。アスタの事を出してきたと言う事は、恐らく特別チームの誰かだとユキは推測したが、念の為二人には帰ってもらった。


もしもの時は、自分一人だけの方が良いと考えたからだ。それともう一つ、相手は恐らくユキ一人にメールを送ったので、一人で行った方が良いとユキは考えたからだ。ユキは指定された公園に着いた、辺りをみるが、誰もいない。


「ここじゃない?いや、でも…」


ここじゃないのかと思って待っていると、向こうから一人の男がこちらに向かってきていた。


「…?」


「君が、ユキ君、で、合ってるかな?」


「貴方は誰なんですか」


「僕の名前は、菊池京夜って言うんだ。まあ好きな風に呼んでくれて構わない」


「じゃあ菊池さん」


「何だい?」


「送ってきたメールの内容、どういう意味ですか」


「そのままの意味だよ」


「ホントに、アスタを救えるんですか」


「あぁ、君が協力してくれればね」


「?どういう事ですか」


「実を言うとね、我々も向こうの世界に行けるか試してみたんだよ。まあ結果としては失敗したんだがね。どういう訳か、あのカプセルのマシーンには、君達じゃないと行けないことが分かった」


「…何を企んでいるんですか」


「企みね、まあ何もないと言えば嘘になるね」


「…」


「確かに目的はある、でもアスタ君を救えるかもしれないと言うのも嘘ではないよ。何せ、こちらの世界ではまだ目覚めていないアスタ君の様子を、また見に行くことができるんだからね」


「!?また、向こうの世界に、行ける」


「あぁ、行けるとも」


「でも、菊池さんにそんな権限があるんですか」


「あぁ、上とはもう話はついている。あとはユキ君が向こうの世界に行くかどうかだ」


「…」


「その話、聞かせてもらいました」


「?」


「?、!?」


ユキは後ろを振り返ると、そこには先に帰ったはずの、ミユキとサオリがいた。二人はユキの事が心配になり、実はユキの後を追っていたのだ。


「二人共、どうしてここに」


「…そんなの決まってるでしょ」


「お姉ちゃんが心配だからに決まってるじゃない」


「二人共、…心配してくれてたんだ」


「当然でしょ、ユキちゃんは大事な親友だもん。心配するよ」


「ホントにその通りです」


「ありがとう、二人共」


「…」


「君達は?」


「ユキちゃんの友人です。菊池さん、アスタさんを救えるかもしれないと言うのはホントなんですか」


「あぁ、なんなら君達も一緒に行くといい。その方がアスタ君も目覚めるだろう」


「でもその前に、菊池さん、貴方の目的を聞かせてください」


「それは、施設で話すよ。それに、もしここで断れば、今後アスタ君を救えるチャンスは二度となくなるよ」


「…分かりました。ひとまず貴方とは協力します」


「交渉成立だね」


二人はお互いに協力し合う事を認め、握手を交わした。ユキは握手した時に、何か手に違和感を感じたが、そんな事より、アスタを助けられる事の方が大きかった為、気にする事を止めた。


そして三人は、菊池の車に乗り、施設まで向かった。施設の近くまで着いた時に、ユキは違和感を感じた。施設を警備しているはずの警備員が、誰一人としていないのだ。


「…」


今は休憩中なのか、ユキはそう考えた。そして施設へと着き、四人は車を降り、施設の出入口の扉までいき、菊池がパスワードを打ち、扉が開くと、中には衝撃的な光景が広がっていた。


「!?」


「これは、一体」


「どういう事ですか」

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