蒼き英雄
雨宮結城
第一章 Part1
森の中で、二人の少年が戦っている。互いが互いを強くさせる為、強くなる為に。
この世界は、様々な街の階層があり、それを全て数えると、二十層あり、第一層から第二十層まで、移動するのにテレポート盤が必要で、テレポート盤に乗れば、自由に色んな階層に行ける。稀にテレポート盤に乗らずとも、自由に色んな階層に行ける者もいる。
そしてこの世界には、第一層から第二十層にかけて、ダンジョンが存在する。
人々は様々な職につきながら、ダンジョンにいるモンスターを倒して、モンスターの核を回収し、それをギルドに渡し、上層部まで渡るようにして、資金を貰い生活している。
そしてそんな世界で戦っていた二人組、アスタとフェイ。この二人もダンジョンにいるモンスターを倒しに行く者達、剣士である。そんな二人にとっては、森の中で戦うのも、生活の一環なのである。
その日もいつもように、片手に剣を握り、声を掛け合いながら、戦っていた。
「はっ!っ!」
「ふっ!はぁ!」
「んっ!もういっちょ!」
「っ!」
「はぁー!」
「っ!んっ、はぁ、僕の負けか」
「…これで俺の勝ちだな、フェイ」
「そうだね、アスタ」
「にひひ」
その日の戦績は、アスタの四勝二敗一引き分けだった。今までの戦績は、アスタの七十一勝六十九敗五引き分けだ。ちなみに数を数え始めたのは、二人が十六歳になった時の事である。現在二人は十七歳だ。アスタとフェイは幼い頃から一緒にいる仲、親友である。
「いやー、にしても」
「ん?」
「相変わらず君は強いな、アスタ」
「何言ってんだよ、フェイの方こそ、俺の隙を見つけては、遠慮なく攻撃してくるし、フェイだって強いよ」
「そう?そう言ってもらえて嬉しいよ」
「あぁ」
「…」
「さて、そろそろ帰るか」
「そうだね、アスタ」
二人は宿へと帰り、一緒に楽しく話していた。
そして次の日、その日は二人だけではなく、ダンジョンに挑んでいる剣士達で、ダンジョンへ調査(三ヶ月に一度)をしに行く日である。
その調査とは、新たに行ったことのないダンジョンの隠し場所の調査とたまに発生する謎の穴がまた発生していないかと言う調査だ。
謎の穴とは、その名の通り、謎に包まれていて、真っ暗な穴、そしてその穴に入ってしまった者は、二度と戻ってこれない穴なのだ。剣士達はその穴に気をつけつつ、ダンジョンへの調査が始まった。
そしてこのダンジョンは、各階層に存在はしているが、入れるのは、第一層からだけである。
剣士達は、第五階層に着いた時、五グループ程に分かれて、調査をすることになった。このダンジョンは、第五階層から枝分かれのように、いくつかの道に分かれていて、そのどの道からも上の層には行けるので、五グループ程に分かれたのだ。
その際アスタとフェイは別行動となってしまった。だが、お互いに考えていることは同じだった。
「これが終わったら、また森でな、フェイ」
「あぁ、だからって調査で手を抜くなよ、アスタ」
「おう」
調査を終え戻った後、またいつものように勝負をする。二人はそんな事を考えつつ、調査を行なった。
数分が経過し、調査は順調に行われた。穴も発生することなく、アスタのいたグループは終わりをむかえようとしていた。
「よし、この調子なら、思ったより早く終わるな」
そんな時、アスタの元に、声なき声が聞こえた。それはフェイの声で
「アスタ」
というものだった。
「っ!フェイ?…なんだ、この嫌な感じ、確かめに行くか」
アスタはそんな声が聞こえ、フェイが心配になり、フェイがいるグループの方へと、急いで向かった。
「おい、どこ行くんだ?」
「すいません!」
「おーい」
「フェイ、大丈夫だよな」
急いで向かうアスタ、そんなアスタが向かった先に、フェイの姿が見え、安心したその瞬間、アスタの目の前で、フェイが、奥にいた巨大なモンスターに殺されてしまった。
「っ!フェイ!」
フェイの元に駆け寄るアスタ。フェイはアスタに、刃折れの剣と、ある言葉をアスタに託す。
「この世界を、守ってくれ」
そう言うとフェイは、息絶えてしまった。
「おいフェイ、おい、おいったら!フェイ!起きろ!起きてくれ!フェイ…」
アスタはモンスターへの怒りもあるが、それより、フェイが死んでしまった悲しみで気がおかしくなってしまった。
「フェイ…」
そしてフェイは、黄色い光に包まれて、消えていった。アスタは、気がおかしくなってしまった状態でフェイを殺した巨大なモンスターに挑もうとしていた。
「よくも、フェイを!」
だがそんな中、アスタは昔、フェイとの会話で言われた言葉を思い出した。
「感情に身を任せたら、勝てる敵にも勝てなくなる」
それをアスタは思い出し、深呼吸をし、冷静になった。
「っ!…ふぅー」
アスタは辺りを見渡し、周りに誰もいない事に気づいた、そして巨大なモンスターの口からは、大量の血がついているのを確認した。
「恐らく、他の皆は逃げたかこのモンスターに喰われた」
そうアスタは判断し、背中にあった剣をとり、モンスターに挑もうとすると、巨大なモンスターの手が急に伸び、アスタに襲いかかってきた。
「っ!ふっ!」
アスタは剣をにぎり、伸びてくる手を難なく剣で捌いた。そしてアスタは気づいた、手が伸びた瞬間、モンスターの頸の中心に、魔力が大量に集まり、核がある場所を示した。
核の周りは、モンスターにとっては弱点であり、それはいかなるモンスターも共通している、核がある場所こそ、モンスターの最大の弱点なのだ。
「あそこか」
アスタはそれを思い出し、足に魔力を集中させ、モンスターに神速の如く近づき、モンスターの核である頸の位置に一点集中し、剣に魔力を集中させ、頸の左から剣を刺し、そこから右へとモンスターの頸を切り裂いた。
「ハァー!」
「うぅ…」
特に苦戦することなく、巨大なモンスターを倒したアスタだったが、アスタは不審に思った。
「どうゆうことだ。このレベルの相手に、フェイが殺されるのは考えられない」
アスタはそう思ったが、そんな事より、フェイの事で頭がいっぱいになった。
「フェイ…」
アスタは、フェイが消える前にいた元に歩み寄る。と、次の瞬間、アスタの後ろから大量の魔力を感じた。アスタは不思議に思いながらも、後ろを振り返る。
そこには、倒したはずの巨大なモンスターの中から、人型のモンスターが現れた。
それにアスタは驚いたが、それよりアスタが驚かされたのは、その人型のモンスターは、先程の巨大なモンスターの魔力量より、遥かに大きかった事だ。
巨大なモンスターの時とは比にならない程の力の差に、アスタは足がすくんでしまった。するとそのモンスターは、余裕の笑みを見せ、アスタにこう言い放った。
「ハハ、その表情。その人間の絶望に満ちた顔が大好きなんだよ。勝ったと思った?思ったよね、弱点に気づいた時もいい顔してくれたよねー。あれはわざと君に弱点を見せたんだよ。その絶望に満ちた顔を見る為にね。君みたいなのが相手でよかったよ。あの三人に来られちゃ敵わないからねぇ」
「あの三人?」
「あぁ、この世界で最強の三人の剣士様さ」
「っ!あの三人の事か」
「だから君みたいなのが相手でよかったんだよ。…さて、そろそろ時間だね」
「時間、だと」
「あぁ、君を殺す時間さ」
そう言い放ったモンスターの恐ろしい表情に、アスタは圧と、殺されるという恐怖を感じとり、身動きがとれなくなった。
「…(戦わなきゃ、勝たなきゃ)」
そんな思いが頭をよぎるが、身体は言うことを聞いてくれなかった。
「殺す前に教えといてやる。俺の名前はケイルだ。この名と共に恐怖に刻んでやる、死ね」
このケイルと言うモンスターから放たれようとしている光線に為す術なく殺される。そう覚悟した、その時、アスタの元に、一人の少女の声が聞こえた。
「死ぬな!」
そう聞こえ、絶望で俯いていた顔をあげた。そしてそれと同時に、一人の少女が、ケイルと言うモンスターを吹き飛ばす光景が目に入った。アスタは何が起こったのか分からなかったが、一つ確かな事があるとすれば、この少女は、アスタより強いという事だ。
アスタを助けたのは、最強剣士の一人のユキと言う少女だった。
「誰だっ、って、お前、あのランキング二位のやつか」
「あぁ、ボクの名前はユキ、君を倒しに来た」
「ちっ、ここで二位様のお出ましか、とっとと逃げ」
「逃がさない」
ユキはケイルを逃がしまいと、目にも留まらぬスピードで、ケイルに迫った。ケイルは逃げきれないと、この瞬間判断し、無理と分かってはいるが、ユキを殺そうと、手を六本に増やし、手を伸ばし、ユキに向かって攻撃する。
ユキは伸びてくる手を全て剣で捌き、ケイルの核である頸に、剣の刃が届くよう集中する。しかしそれは、ケイルの考えた罠だった。弱点には変わりないが、そこにさらに大量の魔力を集め、頸の周りに魔力のバリアをはったのだ。
「(賭けだが、これなら奴を殺せる。くくく、いくら最強の剣士とは言え、これなら勝てまい。さあ、来い!)」
だがユキは、そんな事を気にも止めず、頸に向かって剣を振った。ユキの剣が折れた所を仕留めようとするケイルだったが、ユキの剣は折れることなく、ケイルの頸を斬ったのだった。
「(え、何が起きた。斬られたのか?俺の頸が、そんな…何故…)」
それほどまでに、ユキが強かったという事実がそこにはあった。その後ケイルは消滅し、ケイルを倒したユキは、アスタの元に駆け寄った。
「大丈夫?怪我してない?」
「フェイが…俺の親友が…死んでしまった」
「…ごめん、君の親友、助けられなくて」
「いや、俺に力がなかったんだ、アイツを前に、手も足も動かなかった。他の誰よりも、俺がアイツを倒さなきゃいけなかったのに、守れなかった。アンタが来てくれなきゃ、俺も死んでた。だから、アンタには感謝してもしきれない、でも、でも、守ってやれなくて、こんなに力がなくて、悔しい、悔しい…」
アスタは悔しさのあまり泣き崩れてしまった。するとユキは、アスタの肩に手を置き、優しい言葉をかけた。
「でも、一番大事なのは、力じゃなくて、君が守りたいって思う、その気持ちだとボクは思うな。こんな事言っても、慰めになんかならないかもしれないけど、君は、君が思ってる以上に強く優しい人間だよ。うん、ボクには分かる。君はきっと、これからたくさんの人を、救う人間になる。君の親友も、きっとそう思ってる。だから、泣かないで、君は大丈夫、死んでしまった親友の分まで、君は生きて、たくさんの人を守る人間にきっとなる」
今までユキは、たくさんの人を見てきた。剣に自信がある者、自信は無いが腕がいい者、敵との力の差に追いやられる者、死んでしまった人の前に立ち上がれない者、だが、色んな人と会ってきたユキにとっては、アスタは違った。
敵との力の差に追いやられるが、立ち向かおうとするその勇気、死んでしまった親友を前に、悔しい、守ってあげたかったという気持ち、その想いを見て、ユキは直感した。この少年は、将来、きっと誰よりも強く、皆を守る人間になると。そしてユキはアスタにハグをした、ユキのこの気持ち、想いが、アスタに届くように願って。
「…あぁ、俺は、フェイの分まで生きて、フェイの守りたかったこの世界を守る、フェイの意志は、俺が絶やさない」
「うん、君ならできるよ」
「ありがとう」
「ボクはこれから戻るけど、君は一人で大丈夫?」
「大丈夫、俺は元いたグループに戻るよ」
「そっか、分かった。何か困った事があったら、いつでも言ってね。協力するから」
「あぁ、助かる。ありがとう」
「うん!頼りにしてよね」
二人はそう言って、握手を交わした後、その場を後にした。アスタは元いたグループの所に戻ると、グループは既に解散していたので、アスタも自分の宿へと帰った。宿に戻ったアスタは、昨日まで、二人でいた宿の部屋を見て、どうしても忘れる事ができず涙ぐんでしまった。
「…ごめん、ごめん、フェイ、間に合わなくて、助けられなくて、ごめん」
アスタは自分の力の無さに、打ちひしがれ、床に倒れこんだ。ずっと一緒にいた親友だったからこそ、アスタへのダメージはかなり大きなものだった。このままじゃいけない、それは分かっていても、どうしても、親友であるフェイの事を忘れられずにいた。
「アスタ」
「!?」
アスタの元にある声が聞こえた。辺りを見渡すが、当然誰もいない。
「アスタ」
「フェイ!?」
そう、声の主は、なんとフェイだった。
「生きてたのか、フェイ」
「アスタ、泣くなよ」
優しげな声でフェイは言った。そう、これは昔アスタが怪我をした時に、フェイが言ってくれた言葉だった。
「昔の記憶?何で今。…そうか、きっと俺が泣いていたから、天国にいるフェイが慰めてくれたんだな。ありがとうフェイ、俺、頑張るよ」
アスタはそう言うと、ベットに横になり、気づくとアスタは寝ていた。そして次の日、アスタは起きると、フェイがいつも何かを日記に書いているのを思い出し、机の引き出しを開けた。そうすると、中には日記があり、アスタはそれを手に取った、すると中から一枚の紙が落ちた。
「ん?なんだ、これ、ん、世界の秘密について?」
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