上司育成計画!

ピチャ

上司育成計画!

 私が新人として入社すると、そこには素敵な上司がいた。

大雑把な上長と慣れていない部下の間に立ち、人が気づかない仕事を率先して行い、すべての人に平等で、自分のできる最大限を目指し粛々と物事に勤しむ、サラリーマンの見本のような人が。

教育もこなし、衛生面も管理し、セキュリティにまで手を出す彼は、どこまで多才なのだろうと思った。

日々言動が変わるので、うまく掴めないところがあったが、それは彼の守備範囲の広さによるものだろうと思っていた。体調が悪いとご機嫌斜めなところも人間らしい。


 そんな彼だが、なぜか会社の中では特異な性質らしく、人気がなかった。

そのため私は、この方の魅力を引き出してみせようと思い、自分に任された仕事の合間にその計画を立てていた。

どうやったら彼の良いところが皆の目に映るだろう。



 第一関門。

警戒を解く。

まずこれをせねばなるまい。

何でもできる彼は警戒心が人一倍強く、何でも自分一人で解決してしまった。頭もよく、基本的に人を頼るより自分でやったほうが楽なのだ。その癖があり、人に仕事を任せても自分ですべて確認しないと気が済まないような性格をしていた。

そんな状態では周りに人気が無くなるのも当然だ。人と関わることがすべて無意味になってしまうからだ。

私はまず彼の、人相手の警戒心を解くことにした。


 教育のできる彼は、何かと新人と関わることが多い。

私も新人の一人として、彼に仕事の管理をしてもらっていた。

指示を受ける。仕事をこなす。終わったら報告する。出来を確認してもらう。

これを繰り返す。

仕事の出来をすぐに確認できる状態であったら、見てもらいつつひとつ質問をする。

そして答えてもらう。

これで自分の理解力や考え方の癖を把握してもらう。

ビジネスであろうがなかろうが、人相手の最初の一歩は自己紹介である。

相手に自分が安全であることを確認してもらわねば、警戒心は和らがない。

そうして、仕事上必要なコミュニケーションをとっていく。

これができれば、最低限相手と仕事ができる。

まずお互いそれをクリアしておくのだ。



 第二関門。

人と喋らせる。

仕事は彼と私、二人で成り立っているものではない。

当然ながら、他の人にも関係してくるし、私には関係が薄い仕事もある。

仕事に他の人が関わるとき、その方にも同席してもらう。

具体的には、新人同士で解決できなかったことを、即座に彼のところにもっていく。

私が女性なので、できれば男性が一緒だといい。

男女紛れた空間になれば、性別に関係なく同じように話すことが半ば強制的にできるからだ。

男性女性で話し方が変わってしまう人には、特にいい練習になる。

これで、他の人とも同じように話せることを確認してもらう。



 第三関門。

相談をする。

幅広い相談事をもっていく。

勿論直接的な業務の質問ももっていくが、業務外の仕事の調整の仕方から人生相談まで、少しでもいい仕事生活にするための相談を惜しまない。

緊急的なことでなければ、休憩しているタイミングを狙うといいだろう。

喫煙者ならタバコ休憩中に話すのも、ゆっくり話がしやすい。

大事なのは、上司の仕事具合を把握することだ。

時間を惜しんで業務に取り組んでいるときは日常相談を避ける。

相手とタイミングを共有することが重要である。息を合わせた仕事とはそういうものだ。

自分も必死なときは忙しいアピールをすることが大切だ。言葉だと角が立ちやすいので、できれば行動にするといい。

相談事があることを示し、空いた時間に声をかけてもらうことも重要だ。



 第四関門。

魅力が出る仕事をさせる。

彼の魅力的な部分は脳にあるので、頭を使う仕事をさせる。

そのためには、他の人でもできる作業をできるだけ減らして仕事モードの頭でゆっくり考える時間を作ってもらう。

判断を間違えないようにしてもらう。間違える役割をこちらが引き受ける。

部下が適切な仕事をできるように、管理的な部分にとる時間を増やしてもらう。今まで使えるはずの頭を使わず、さんざん作業をしていたため、部下の作業がまったくわからないということはないだろう。

細々とした作業を引き受け、まとめる・判断する実績と、部下を育成する実績を積ませる。彼は作業しても実績があまり変化しない。作業が多すぎるとミスが増え成長しないし、成し遂げた実感も沸かない。

それでは彼の魅力が出せなくなる。

作業は時給で仕事をしてくれる人にお任せする。



 こうして彼から魅力を引き出す。

作業はルーティンワークのみに絞ってもらい、時給労働から引退する。

昇格させてポジションを空けてもらう。

そして私を成長させることに専念してもらう。私は成長し、彼はそれも実績に、昇格する。

それは部下の役目の一つである。

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上司育成計画! ピチャ @yuhanagiya

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