鴉 149
「ねぇ鴉〜」
「ん?」
「今日はやっぱり、神社に行かない方がいい?」
光とふたりで昼ご飯の片付けをして、俺は居間のソファーでタブレットを見てた。
光にちょっとびっくりされた。
鴉がタブレット‼︎って。
とりあえずは、今日のニュースを。
この山しか知らない俺に、そういうのも必要かもしれない思って。
他に何を知っていけばいいのか分からないから、とりあえず。
光は廊下の開けた窓のところに座ってた。
午前中俺が寝落ちしたところ。
カラスは外に飛んで行った。あれでも野生のカラスではあるから、しかもボスカラスでもあるから、外に行く何か理由があるんだろう。
気狐は相変わらず、というか、今日はいつもより光にべったりな気がする。
今も光の真横にくっついて座ってる。
俺に聞くために俺を肩越しに見てた光が、また目の前の、山へと続く木々に視線を戻した。
光は、そこが好きなんだと思う。
廊下がって言うか。廊下からの景色が。
ネコマタのために天狗が物干し台を退けたから、よく見える。緑が。木が。山になっていく森が。
よくそこに座ってる。
神社、か。
午前中は、昨夜のこともあって俺が光にべったりだった。
光なりに気を使って、今日は出かけるって言わなかったんだろう。
正直に言えば、昨夜を思い出すと今もべったりしたい気持ちではある。
でも、そうしない方がいい気がするから俺はソファー。
光が変に俺を意識し過ぎてる。だから今は。
拾った小さいのは、少し面倒なところがある。
そこがまあ、手がかかって世話のしがいがある。
「今日は俺とうちに居て欲しい」
「………っ」
神社も、一緒に行けば一緒に居るってことに違いはないし、光が行きたいなら、行かせてやった方がいいんだろうと思う。思ってる。
いつもは。
光は無言だった。
だから見た。見てた。
タブレットを脚の上に置いて。俺に背中を向けてる姿を。
鴉のケチ、とか言うのか?って。
「鴉って時々そういうこと平気で言う天然タラシだよねっ」
「………?」
「言ってて恥ずかしいとかない⁉︎」
「………?本当のことだから、別に」
「だからそれがっ」
ばって。
光がこっちを向いた。
光の方が明るい方に居るから、どんな顔をしてるのかはよく見えない。
残念だな。
絶対赤いとか、照れ隠しの威嚇とかなのに。
拾った小さいのの思考回路は、複雑すぎて俺にはよく分からない。
「今日は1日光とうちに居たい」
「………もうっ‼︎」
よく見えないけど光の顔を見て言ったら、光は怒ってぷいってまた俺に背を向けた。
明日は行くからね‼︎って。明日は一緒に来てよ‼︎って。
隣。
行きたい。
行ったら怒られるか。行ったら警戒されるか。
隣に行って、座って、ありがとうってその頭を撫でたい。
難しいんだな。人って。心って。誰かと接するって。居るって。
天狗相手なら何も考えずにいられるのに。
「光」
「なあに⁉︎」
「ありがとう」
「………もうっ‼︎」
「………何で怒る?」
「鴉が鴉だから‼︎」
「………?」
「いいの‼︎分かんなくて‼︎」
拾った小さいのの思考回路が複雑すぎて、俺には。
分からないから、そうだ。
「プリン食べるか?」
「………へ⁉︎」
「食べるなら作ってやる」
「え、今から?」
「今から」
「鴉が?」
「俺が」
「食べる‼︎手伝う‼︎」
分からないときは、考えるよりも。
プリンにつられてこっちを向いた光が。
………かわいいと、思った。
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