光 138
ちょっと身体がずんってなって、やばいかなって思って、どうにかこれ以上変なことを考えないようにって、僕は小学校の校歌を無理矢理思い出して歌った。
メロディーはわりと覚えてた。
歌詞はあんまり。
だから途中から鼻歌。
何で咄嗟に小学校の校歌かって、この景色を見て、だよね。
『緑色濃き』みたいなのが歌い始めにあったと思う。
小学校の校歌は単純に歌った年数が長くて、中学高校に比べるとまじめに歌ってたから記憶に残ってる。
中学高校のなんて………ちっともだ。
悲しいことに、僕には他にぱって思い出せるほど好きで知ってる歌が特になかった。
あんまり興味を持てなかったな。色んなことに。
だから、色んなことができる天ちゃんや鴉が。
って、だから、やめよう。考えるのは。
鴉とかーくん、きーちゃんとで眺めてる濃い緑の山。
僕の鼻歌。
脚の上のかーくんが、僕の鼻歌に合わせて踊ってた。
メロディーは最後までいけそうだなって鼻歌をしてたら、緑の中からまーちゃんの大きい姿が出てきたのが見えた。
大きい黒猫又のまーちゃんに小さいひとつ目いっちゃんが乗ってるから、ここからじゃいっちゃんは着物がちらっと白い点でしかない。
僕はおーいってふたりに手を振った。
てっきりそのまま、いつものペースでのっしのっし来るんだと思ってたら、まーちゃんが何故かにゃあああああって、ここまで聞こえる結構大きい声で鳴いて、何故かものすごい勢いでこっちに走って来た。
「え?え?え?こわいこわいこわいっ」
いっちゃん落ちちゃうよ⁉︎ってのと、勢いが凄すぎてそのままどーんって来られそうなのとで、うわわわってなった。
遮るものがないんだよ。天ちゃんが洗濯物干すやつを移動してくれたから。
かーくんは危険を察知したのかばさばさって飛んだ。
一直線。
何なら僕を見てるかも。突進。
いつもとは違うまーちゃんにろくに動けずに居たら、横から。
僕を庇うように、守るように、鴉が。僕の前に。
うわ、鴉。
自然に咄嗟にそんなことができるなんてどうかしてるんじゃないの⁉︎
どきんってなっちゃった心臓を、そんな風に思って誤魔化してみた。
まーちゃんは僕たちの真ん前ぐらいまでダッシュして、ざざって音がするほど今度は急停止した。
そしてにゃあああああって、全力の鳴き。
ものすごい僕を見て、な気がするのは気のせい?
挨拶っていうより、怒られてるような。こら‼︎的な。
でもその後のまーちゃんは気が抜けるぐらいいつも通りで、頭を下げて撫でてポーズ。
僕は庇うみたいになってくれた鴉の後ろから出て、おはようってまーちゃんの頭を撫でた。
ゴロゴロゴロ。
まーちゃんの喉が鳴る。
こら‼︎って聞こえた気がしたのは、気がしただけ?
「ひかる」
ゴロゴロがかわいくて両手で撫でてたら、ぴょこっていっちゃんがまーちゃんの毛の中から出てきた。
髪の毛がぼさぼさなのは、まーちゃんのダッシュのせい、かも。
「おいで」
僕はちょっと高い位置にいるいっちゃんに手を伸ばした。
小さいいっちゃんがぴょんって飛んで、僕はいっちゃんをキャッチ。
いっちゃんの小さい小さい手が、僕の服をぎゅって握った。
そして僕の身体は、一気に軽くなった。
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