光 132

 鴉が蝋燭と水を入れたバケツを用意してくれて、ほらやれって。






 やろうじゃなくてやれ?






「鴉はやらないの?」






 天ちゃんがくれた花火は小さいセットでそんなに入ってない。



 ふたりでやったらめちゃくちゃあっという間に終わると思う。



 けど、せっかくなら一緒にやりたい。






 そう思って聞いて、そう思って鴉を見てたら、鴉も1本花火を抜き取った。






 なんだかんだこうやって付き合ってくれるのが、鴉なんだよね。






「花火なんてすごい久しぶり」






 蝋燭で火をつけて、バチバチ勢いよく散る火花は、久しぶりでキレイだった。



 きーちゃんがちょっとびっくりして僕から離れた。






「俺は毎年やってる」

「え?」

「天狗が毎年こうやって持って帰ってくる」

「ふたりでやるの?」

「ふたりでやる」





 天ちゃんと鴉がふたりで花火。






 きーちゃんが驚いて、かーくんが平気なのはだからかって納得と。






 天ちゃんと鴉がふたりで花火。



 天ちゃんと鴉がふたりで花火‼︎






「何かシュールだ」






 多分だけど。



 ノリノリで振り回しながらやってるだろう天ちゃんで、それを近くで見てる鴉なんだろうな。






 想像だけどね。



 でも、絶対そんな感じ。間違いないって。






 僕はしばらくその想像で笑った。











 鴉と半分ずつやった。



 入ってたのが奇数本で、最後は光やれって問答無用で渡された。






 風の音。



 虫の声。



 あと時々の何かの動物の声。






 空はびっくりするぐらい満天の星で、その下で花火。






「夏の思い出ができた」






 夏らしい夏の思い出。






 来年もやれたらいいのに。



 来年もここで、こうやって。






 終わった花火をバケツに入れて、シュンって音にそう思った。









 お風呂は神社から帰って来てから入ってるんだけど、とにかく煙くさくてじゃあシャワーを浴びようって順番に浴びた。



 先に僕で鴉が後。






 出てから鴉を待ってる間、僕はすごく緊張してた。






 何でって、天ちゃんに。



 さっき天ちゃんが仕事に行く前に、一緒に部屋を出る前に、宿題を出されたから。






 宿題っていうか。






 ………宿題。課題。みたいな。






『鴉の親としては、ぴかるんの気持ちを、ぜひ鴉に伝えて欲しいなあ』って。






 気持ち⁉︎気持ちって何⁉︎って焦りながら聞いたら、今が消えるのはイヤって言ってくれたその気持ちだよって。






『オレはそれを聞いて嬉しかった。鴉はきっと、もっと嬉しいと思うから』






 そう言って天ちゃんは僕の頭を撫でて、ね?って。にやって。笑った。






 あの『にや』は何だったのか。



 からかわれてるだけ?って思わなくもない。






 けどね。






 伝えることは大事なこと。



 それを教えてくれたのは天ちゃんで、鴉はちゃんと僕に伝えてくれた。






 別に今日言えって言われた訳じゃないけど僕が勝手に、鉄は熱いうちに、で………早い方がいいのかも、とか。






 だから。






 鴉が鴉の行水レベルであっという間にシャワーを浴びて出て来て、いつものように僕の髪の毛を乾かし始めた。






 伝えるのが今日なら、タイミングとしては、コレが終わった後?






 ………何か、告白するみたいって思うのは僕だけなのか。






 ううん。



 告白では、ないよ。






 だって僕は恋愛なんてできない。相手が鴉だから、同性だからじゃない。相手が女子でもムリ。






 天ちゃんに『変えられるのは自分と未来』って話を聞いたって、僕は正直ムリって思ってる。『あんなこと』をされた僕が、どうやったら恋愛、なんて。






 っていうかそもそも鴉の、僕への気持ちが恋愛感情なのかもナゾだけどさ。






 なのに、どきどき。



 なのに緊張。






 告白じゃないのに、だよ。






「よし」






 めちゃくちゃ満足そうに僕の髪の毛をかわかし終えて、ドライヤーをしまいに行こうとしてた鴉を、僕は引っ張った。






 呼んで引っ張ったのはいいけど。






 え、僕何て言えばいいの⁉︎






 分かんなくて。



 分かんなくて。






 分かんなくて。






「鴉と居ると」

「………?」

「僕‼︎鴉と居ると‼︎鴉と居たいと思うよ‼︎」






 これって鴉が僕に言ってくれたまんまじゃん‼︎



 っていうのはもう置いといて‼︎






 僕は鴉を睨むように鴉を見上げて、怒鳴るように言って、恥ずかしさに耐えられなくて、うわあああってそこからダッシュで逃げた。

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