光 2
目の前に、カラス。
もう鼻のすぐ先にカラスが居て、うわあああって思わず叫んで身体を捻って逃げようとした。
その瞬間、身体の中心に駆け抜けた痛みに、うっ。て。
僕。
カラスはばさばさってちょっと羽をばたつかせてまた僕の身体の上に乗った。
何、このカラス。
っていうか、ここどこ。
上半身うつ伏せ、下半身は横向きの中途半端な体勢。
それで目に入るのは畳。枕。布団。
うちじゃ、ない。
っていうかうちじゃないよ。当たり前じゃん。
僕はこの春から全寮制の男子校に入って。そして。
痛い。
身体が痛い。身体っていうかもうピンポイント。
痛みと一緒に全部を思い出して、何でって。
僕は。確か。
僕は山に入ったはずだ。
入ったら出られないって聞いた天狗山に。
確かに入って奥へ奥へと進んだ。
そして。
そして?
ばさ。ばさばさ。
背中。
重み。
音。
に、肩越しに振り向いた。
背中を見た。
カラス。
これ、カラス、だよね?本物だよね?
「ここどこ⁉︎何でカラスが家の中に居るの⁉︎」
カアアアアアアッ………
「ひゃああああああっ」
予想以上に大きい鳴き声にびっくりする。
鳴き声だけじゃない。カラスって。
カラスってこんなに大きいの?普通にこわい。誰か。この家の人は?
こわくて思わず丸くなった。
それしかできなかった。
逃げようにもカラスは乗ってるし、痛いし。お尻が。
そのときだった。
「カラス」
低くぼそっとした声。ぞくって、する。そんな。
誰⁉︎って僕は顔をあげた。
そこには。
「カラス、退いてやれ。ビビってる」
黒髪、黒いTシャツ、黒いGパン。
何、この人。誰。
普通じゃない。
その人を見て思ったのがそれだった。普通じゃない。
背、僕が寝てる状態だからはっきり分からないけど、多分背がすごく高い。手とか足とか何か長い。
僕を見下ろす切れ長の目とか。あり得ないぐらい整った顔とか。
雰囲気。出てる空気、とか。
「だっ………誰⁉︎ここどこ⁉︎」
圧倒されるって、こんな感じで。
それを払うみたいに僕は喚いた。
「ここは天狗山の天狗の家で、俺は鴉」
「え………天狗?カラス?」
この人、真面目な顔して何を言ってるんだろう。
背中のカラスもこわいけど。この人も。
大丈夫?この人。
でも。
この人。
目が、すごくキレイ、かも。
「名前は?」
「………ひかる。影森 光」
高校1年生の5月。
もういいやって入った天狗山で。
僕はおかしな、不思議な出会いをした。
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