わたしが作家になりたい理由

霜月 アカリ

ちょっと変わった転校生

 の新しい友達は、ちょっと変わった奴。

 暇さえあれば小さなパソコンのキーボードを夢中でたたいていて、すごい集中力のため、声をかけるのをためらってしまうほどだった。

 そのため、自分から人に話しかけに行くことをほとんどせず……。

 まぁ、一言でいえば『浮いている』奴だったのだ。



 そいつがウチのクラスに転校してきたのは、高校二年生の二学期、始業式の日。


 当然のことながら、朝のホームルームが終わるやいなやすぐにクラスの奴に囲まれていた。転校生の宿命とでもいえる現象である。

 だが、大勢の人に話しかけられることに慣れていないのか、見ていてかわいそうなくらいテンパっており、それを見かねたウチが追い払ったのが始まりだ。



 そいつ―――――木下きのしたさくらは人付き合いこそ苦手だが、話してみると面白いやつで、ウチらはすぐに仲良くなった。

 移動教室の時はいつも一緒だし、体育の時ペアを組むのもだいたい桜だ。

 最近はウチのグループの奴とも仲良くしているようで、笑顔も多い。


 ただ、桜を休日遊びに誘うと、必ず「そこって電車で行くところ?」と聞く。

「そうだよ」と答えるといつも断られてしまう。

 電車が嫌いなのか、と尋ねてみたところ、「嫌いってわけじゃないんだけど……」と困ったように言って。


「ただ、もうしばらくは『駅』に近寄りたくないだけなんだ」


 そのときの桜の瞳には深い闇があった気がして、ウチはそれ以上何も聞けなくなった。



 それからしばらくたったある日、ウチは桜にまた別の質問をしてみた。

 ずばり、「いつもそのパソコンで何をしているのか」である。

 それを聞いた時、桜は目を見開いて、それから照れたように笑って答えてくれた。


「これはね……実は、小説を書いてるの」

「小説?どんなやつ?」

「………読みたい?」

「うん!あ、でも、桜がいいならね!」


 そう言ったら、桜は「じゃあ、はい」と立ち上げたパソコンを手渡した。

 書いてあったのは、高校生の女の子が異世界に行ってしまう話。最近はやりの「異世界モノ」だった。


 おとなしめな桜が書いているのは少し意外だったが、いつもハイテンションで明るい主人公はとても魅力的で、あまり本を読まないウチでもすぐに引き込まれた。

 しばらく読み進めたころに、桜が「どう、かな」と控えめに感想を求めてきたので、ウチは使える限りの語彙ごいで褒めちぎる。


「すごいよ!桜!すごい面白い!」

「え、そ…そう?」

「面白いよ!!主人公もかわいいし………あぁもう、こういう時にもっとほめ言葉が出てくればいいのに………!ね、これ今日持って帰って読んでもいい?あ!別に履歴とかあさったりしないからさ!この小説、ほんとに面白いから、続き読みたくて………」


 そういって桜の方を見ると、なぜか膝の上で拳を握り締めて、うつむいていた。


 このとき、一番焦ったのはウチだ。


「えっ、桜!?ごめんウチ、なにかしちゃった!?」


 あわてて駆け寄ると、桜は「ううん」と言って首を振る。


「ちがうの………ごめんね。小説、人に見せたの初めてで……だから、ほめられて、うれしくて……面白かった?」

「うん!まだ最初しか読めてないけど、続き、読みたいよ!」

「そっか………じゃあ、それ今晩貸してもいいよ」

「ほんと!?」

「うん……使い方は、普通のPCと変わんないから―――――」



 家に帰って読んだ小説の続きはやっぱりとても賑やかで、ハラハラして面白く、ウチはその日から、桜の将来の夢――――作家になること――――を応援している。

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