片思い
久石あまね
第1話 秋、体育祭予行
帰宅部が一番忙しくなるのは、間違いなく秋だ。だって体育祭に合唱コンクールまでもあるからだ。授業が終わったあと、それらの練習があるから、なかなか自宅へ帰れない。
だから帰宅部が一番忙しいのは秋なのだ。
まだ残暑が残る九月の夕方。ちょっとだけ涼しくなったとはいえ、まだちょっと暑い。
僕は体育館の入り口のところで制服から体操服に着替えていた。ほんとうなら、こんなところで着替えてはいけないけど、僕は別に大丈夫だろうと思って着替えていたら、「ここで着替えたらあかんって!」と言われた。
ふと顔をあげると体育館の入り口の外にこの中学校の生徒会長の山本あずさ先輩が立っていた。
山本先輩は肩までの黒髪を二つサイドに結い、クリリとした二重まぶたをこちらに向け、ぷっくりとした頬を紅くさせていた。
「もうっ!こんなところで着替えんとってや!」
中学生にしては声が低くしっとりとした声だった。ちょっと声の出し方と響き方がエロいなと思った。
「はい!すいません!」
僕はパンツだけしか履いていなかった。このまま体操服に着替えるか、制服に着替え直すか迷ったが、反抗的かもしれないが、体操服にすぐに着替えた。
山本先輩はそれを見て、ため息を一つついた。
「生徒会長のあたしの前でそんなことしたあかんでぇ?」
山本先輩は可愛くドスを効かせた声で言った。
山本先輩は可愛いなと僕は思った。こんな可愛い先輩と仲良くなれたら、もっと中学校生活がおもしろくなるだろうなと思った。
山本先輩はそのまま僕の脇を通り過ぎて、体育館の中にある体育倉庫の中に入っていった。きっと体育倉庫のなかから何か取り出そうとしているのだろう。だって今から体育祭の予行があるのだから。
僕はカバン中に制服をぐちゃぐちゃのまま突っ込んで、走ってグランウドまで行った。
グラウンドには生徒達がはしゃぎながら走ったり、綱引きをしたり、体育祭の予行をしていた。
僕はそれを見ながら、グラウンドの片隅でひとりポツンと体育座りをしていた。
誰か話す相手がいればいいのになあと思った。
でも僕には誰も友達がいない。
友達がいない僕にとって体育祭は、ちょっとしんどいなと思った。
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