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カラスヤマ

第1話

「ねぇねぇ~朧(おぼろ)くん。頼みがあるんだけど」


放課後。軽いカバンだけを持って、帰ろうとする俺に学園のアイドルで、幼馴染でもある名足(なたり)が話しかけてきた。低身長だが、超絶美少女。この名足が猫撫で声で俺に話しかけてくる時は、面倒な事を頼む時と決まっていた。


「またバレスタに私を連れて行ってぇ?」


「はぁっ!? 今からは無理だって。見たいアニメもあるし。帰りが遅くなるから」


「ふ、ふ~ん………。ただの三流魔道士ごとき雑魚が、大国の王女である私の誘いを、そんな糞アニメの為に断るんだね。ふ~ん……分かったよ。今から親衛隊長の鮫島君にシメてもらうから」


怒りで身を震わせている名足は、スマホを取り出し、激しい勢いで誰か(たぶん鮫島)にメッセージを送り始めた。


慌ててその右手を掴み、


「わ、分かったから! あの筋肉バカを呼ばないで!!」


「………そんなに激しく手を掴まないでよ……。痛いよ?」


なぜか頬を染めた名足に潤んだ瞳で見つめられた。


どういう心理状態?


「あ……ごめん…」


とりあえず、無難に謝っておく。


「別にいいよ~」


男女共に人気がある名足には、彼女を慕う親衛隊なるものが学園に存在している。その親衛隊の生徒の中には三度の飯より喧嘩大好き、鮫島のような男も含まれていた。


「ところでバレスタに行って、何するんだ?」


「久しぶりにアランが作るプリンが食べたくなったの~」


アランとは、王宮の元お抱えシェフだ。

確かにこの世界には存在しない食材で作るデザートはかなりの美味だった。



五年前ーー。


戦争が激化した為、王様から頼まれた俺が王女である名足をバレスタから、適当に選んだこの世界に避難させた。


今は、休戦状態で昔ほど危険もないし、いつ戻っても良いのだが……。


俺達は日本がひどく気に入り、気づいたら第二の故郷になっていた。

正直、バレスタよりも住み心地が良かった。あっちの世界にはないマンガやアニメもあるし。


………………………。

…………………。

……………。


帰り道の途中で名足と別れ、家賃三万のボロアパートに俺だけ先に帰った。その十分後。他の生徒が周囲にいないことを確認した名足が合鍵で部屋に入ってきた。


土足で。


「靴は脱げよ! ここは、日本なんだから」


「うるさい蠅ね。別にいいじゃない。靴を脱ぎたくないのは、私の足が汚れるからよ。ってか、たまには部屋を掃除したら? いつ来ても汚いし、なんか臭い」


眉間にシワを寄せながら、抗議する。俺は、そんな名足を無視すると部屋の中央に置いた簡易テーブルを少しずらすと床に膝をつき、両手を床にピタッとつけた。


闇の言葉を静かに呟くと、床に黄金の紋章が表れ、青白く輝きだした。


その光の円の中に入った俺達は、一瞬で日本から異世界『バレスタ』に移動した。

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