VRMMOのイベントに参加しない楽しみ方

壬黎ハルキ

第一章 ブリリアント・マイペース

001 兄と妹



『……ゴメン、お兄ちゃん。もう一回言ってくれる?』


 電話の向こうで、妹が引きつった声を出した。


『なんか今、『GSG』の懸賞でVRMMOが当たったとか聞こえたんだけど』

「あぁ。それで合ってる」


 『GSG』とは『GearギアSystemシステムGamersゲーマーズ』の略。立派な大手のゲーム会社である。

 過去に家庭用ゲーム機で、何作もアドベンチャー系のゲームを出しており、常に最先端の技術を取り入れる姿勢を貫いてきている。俺が懸賞で当てたVRMMOが、ここ数年における一番の売り上げを誇る、大人気タイトルなのだ。

 それを無料で手に入れたと聞かされれば、驚くのも無理はない。

 恐らく電話の向こうの妹は、さぞかし混乱していて、口をあんぐりと開けていることだろう。


『……マジ?』

「マジ」

『うわぁ』

「なんだよ、その反応は?」

『いや、だって確率的にヤバすぎじゃん』

「まぁな。当選者一名にダイレクトで引っかかったわけだし、なんか一生分の運を使い果たしたような気分ではある」

『……その割には、妙に落ち着いてる感じじゃない?』

「驚きを通り越してる結果だ」

『なるほど』


 とまぁ、会話が一区切りしたところで、そろそろ自己紹介といこうか。

 俺の名前は紅月あかつきまこと。大学二年生だ。

 実家暮らしではあるが、親父は仕事で毎日のように家を空けているため、実質一人暮らしをしているようなものである。一軒家に一人で暮らすのは、少々広すぎる感じがしなくもないが、まぁそこらへんはどうでもいい。

 電話の相手は俺の妹――立花たちばな彩音あやねだ。俺と同じくゲーム好きな女子高生である。


 ――苗字が違う? それはあなた、ウチの両親が離婚したからですよ。


 それぞれ父親と母親に一人ずつ引き取られて今に至る。流石に音信不通は避けたいという互いの思いから、連絡先の交換はしっかりとしていたのだが、正直連絡するようなことがそうあるわけでもないため、最近までは音信不通に等しかった。

 それがここにきて、思わぬ形で解消されたのだった。

 なんとなくゲーム会社『GSG~ギアシステムゲーマーズ~』の懸賞に応募してみたら、まさか一等が大当たりするとはねぇ。俺も予想外でしたよ。

 当選の発表は商品の送付によって行われた形だったから、尚更というものだ。


『でもホント驚いたよ』


 ここで妹が、改めて切り出してくる。


『まさかお兄ちゃんがVRMMOをやる日が来るなんてさ』

「あぁ。それは俺も思ってる」


 完全に同意でしかないため、俺も苦笑するしかない。


「一緒に届いたこの……エターナル・ライフ・オンラインっての? なんか凄い話題になってるゲームなんだってな?」

『そうだよー。ちなみにそれ、公式略語で『エタラフ』って呼ばれてるから』

「ふーん、エタラフね……」


 まさか公式で認められている略語があるとはな。確かに長いタイトルだから、略すのは最重要課題であるのも、なんとなく分かるような気はする。


「彩音も確か、このゲームやってるんだよな?」

『やってるよー。もうバリバリと♪』

「そうか。なら良かった」


 彩音の返答に俺は思わず笑みを零す。ゲーム好きなのは相変わらずらしい。それでちゃんと学業もおろそかにしていないのだから、凄いものである。

 当たり前だと言われればそれまでだが、それでもゲーム漬けになって学校に行かなくなる子供も少なくない。そんなご時世だからこそ、俺は兄として、普通に凄いと評価してやりたいと思っているのだ。


「実は俺も、軽くネットで調べてはみたんだけどさ」

『うんうん』

「よくあるファンタジーものっぽい感じなんだな。剣と魔法でモンスターを倒しながら進めていくみたいな……」

『そうだねぇ。でもそれだけじゃないんだよ?』


 なにやら探りを入れるような声からして、恐らく今の彩音の表情は、ニヤリと目を細くしながら笑っているのだろう。


『このゲームはね? プレイヤーのリアルの能力も加味されるんだよ』

「あー、なんかそれで戦闘系になるか生産系になるか、決まってくるんだっけ?」

『大体そんな感じかな。まぁ、そこらへんは、実際やってみれば分かるよ』

「りょーかい」


 簡単に言えば、運動神経が良ければ戦闘系に。手先が器用ならば生産系に分かれやすいというところか。生産系も、料理や調合など色々とあるらしく、そこで更に得意分野が分かれていくとネットには書かれていた。


「にしても凄いよな。ヘッドギアを頭に被るだけで、身体能力まで読み取るのか」

『そこが凄いところだよね。仕組みは全然分からないけど』

「別に分かんなくてもいいんじゃないか? 分かったら面白くなくなるだろ」

『確かにね』


 電話の向こうから、彩音の苦笑する声が聞こえてくる。気にならないといえば嘘にはなるけど、無理して知りたいとは思わない。

 ロマンはロマンのままが一番。そういうこともあると思うからだ。


「とにかく俺は、これからエタラフにログインしてみようと思う」

『おー、そうこなくっちゃ!』

「それで分からないことが出てきたら、連絡してもいいかってことだけ聞きたかったんだけど……」

『あー、全然いいよー。むしろウェルカム♪ ドンドン来ちゃってちょーだい』

「そ、そうか。そりゃどうも」

『お気になさらずー』


 なんか電話の向こうから圧が強くなってきているのは気のせいだろうか。まぁ、でも機嫌が良さそうではあるし、とりあえず大丈夫だろう、多分。


「じゃあ、またな」

『はいはーい』


 そして俺はスマホの通話ボタンを切った。と――ここで新たに気づいた。

 彩音のプレイヤー名を、完全に聞き忘れていたことに。


 ――まぁ、いっか。


 すぐにゲーム内で合流する約束をしたわけでもなし。後で連絡した時にでも聞けばいいだろう。

 そんなことよりも、早くログインしてみよう。

 いくら大学が夏休みで、親父も帰ってこないからのんびりできるとはいえ、時間そのものが無限にあるじゃないからな。

 取説を読みながらセットアップを行って――これは簡単だな。

 電源ケーブルを接続して起動して、画面の指示に従って初期設定をするだけ。スマホやパソコンの設定作業に慣れていれば、全然難しくはないレベルだ。

 そしてエタラフのソフトをインストールして、専用のグローブとヘッドギアを装着して――準備完了だ。


「さぁ、行こうか!」


 声に出しながら俺は、ヘッドギアにあるスイッチを改めて起動するのだった。





―― あとがき ――


VRMMOものを書いてみたくなったので、書いてみました。

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今後もどうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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