第183話 桃から生まれた桃太郎

 おばあさんは神様っぽい人に指差されてもキョトンとしていましたが、


「お、おばあさんや」


 と、おじいさんに声をかけられ、


「あ!」 

 

 と、一声叫びました。


「そういやそうでした」


 って、忘れてたんかーい!


「いや、忘れてたわけじゃなくて……」

 

 って、本当は忘れていたようです。


「おばあさん、僕、桃に入ってたの?」

「いや、実はそうなんじゃ」


 おばあさんではなくおじいさんが答えました。


「ある時、わしがいつものように山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行ったんじゃが、帰ってきたら大きな桃を拾って帰っておってな、それで、食べようとして切ったら中の種から太郎が出てきたんじゃよ」

「ええー!」


 太郎だけじゃなく、その場にいたみんなが驚いて声を上げました。


「だから、おまえのことを桃から生まれた桃太郎と名付けたわけじゃ」

「って、僕、ずっと太郎としか呼ばれてないけど……」

「え?」


 そうです。

 確かに本名は「桃太郎」と名付けられましたが、ほとんど誰も本名で呼ばずに「太郎」と呼んでますし、その時その時で「引きこもり太郎」とか「部屋太郎」とか好き勝手に呼んでました。


「そ、そうだったっけ?」

「うん。だからずっと自分の名前は太郎なんだと思ってた」

「ありゃまあ」


 いや、ありゃまあじゃないし!


「そうか、太郎や」

「うん」

「おまえの名前、本当は桃太郎なんだよ」


 って、今頃言われてもー!


「そう、桃から生まれたから桃太郎なんですよ」


 って、説明されてもー!


 とにかく不思議な神様っぽい人が出てきて、太郎の不思議な出生の秘密をみんなが知ることになりました。

 

 太郎は別に自分が桃から生まれようがスイカから生まれようが柿から生まれようが、そんなことはどっちゃでもいいのですが、ただ一つだけ気になることがありました。

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