第153話 鬼の手代

「薬種問屋さんですか」

「ええ、まあ」

「本の転売って、そんなに儲かるんですか?」

「え?」

「だって、高いって言っても本でしょ? それをどのぐらい利益を乗せて売るのか知らないけど、そこまでして儲ける必要ありますか、薬種問屋さんほどの商売なさってる方が」

「いや、それは……」

「薬やら、ついでに外の国の何か、例えば工芸品とかも売り買いしてらっしゃるでしょ? いくら高く売れるって言っても本だしなあ、そんなのと比べてそれほど利益が出てるようには思えないんだけど」

「…………」


 やらし屋が奇妙な顔で黙ってしまいます。


「あの……」


 「外道の鬼」の1人がおそるおそる手を上げました。


「はい、どうぞ」

「あの、あたし、実はやらし屋の手代をやっておりまして」


 そう言って恐ろしげな鬼の面を外しますと、


「変わらない……」

「へえ……」


 中からほとんどその面のまんま、な顔の一応人が現れました。


「それで、どうしたの?」

「はい、その、旦那様ですが」

「おだまり!」


 やらし屋が焦ったようにそう言って手代と名乗る鬼を怒鳴りつけました。


「ちょっとやらし屋さん黙って」


 太郎がそう言うと、きまりが悪そうに黙ります。


「鬼の手代さん、やらし屋さんがどうしたって?」

「はい、あの」

「やらし屋さんのことは気にしないで、言いたいことは言って」

「はい」


 鬼の手代がおずおずと、主人の顔色を伺いながら、それでもしっかりと答えます。


「ご主人は売って利益を上げようってのは、そりゃまあないことないですが、何よりご本人がお好きなんです」

「ええええええええ!」


 周囲からどよめきのような声が上がりました。


「それで、ご自分が読みたくて、それであのように無体な真似を……」


 以外な事実でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る