第152話 転売屋の本業

「ちょっとちょっと、落ち着こうよ」


 今にもやらし屋を八つ裂きにでもしかねない雰囲気に、太郎がどうどうとストップをかける。


「なんでみんなは転売屋にそんなに腹を立ててるの?」

「なんでって、そりゃ分かるだろう!」

「そうよ、一生懸命作った本を勝手に高く売ったり」

「そうだよ、他に欲しい人がいるのにその人たちの手に渡らないだろうが!」

「なるほど」


 太郎はみんなの声を聞いてちょっと分かった気がしました。


「じゃあ、あれかな、もしも、やらし屋さんが勝手に高く売ったりしなくて、きちんと扱って売ってくれたら問題ないの?」

「そりゃあ……」


 太郎の言葉を聞いてみんなは困ったように黙ります。


「いやいや、そんな良心的な商売人だったら最初からそんなことしないだろ」

「そうだそうだ!」

「できませんか、やらし屋さん?」

「え?」


 いきなり聞かれてやらし屋が驚きます。

 一体どうされるのかとびびっていたところに、いきなりそんなことを聞かれたんですから。


「だから、みんなの本を問屋みたいにきちんと取り扱ってくれたりしません?」

「えっと……」


 やらし屋は困っているようだ。


「そもそも、やらし屋さんて何屋さんなんですか?」

「薬種問屋ですが」


 やらし屋は太郎の質問には大人しく答えることにしたようです。

 なんとか助けてもらいたいんでしょうね。


 「薬種問屋」とは文字通り薬を扱う問屋さんです。薬は大事なのでお上も商売を奨励し、冥加金(税金)を納めると営業独占の特権を与えたりしたもので、かなり儲けて力を持ったりもあったようです。

 やらし屋はその中でも、長崎や海外からも薬を仕入れて売っていたので、かなりかなり羽振りがよく、それで御用商人にもなれたんでしょう。

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