第150話 転売屋の言い分

 あまてらす様には太郎の理解がそのぐらいということが、顔を見ていてなんとなく伝わりました。何しろ海千山千、経験豊富に世間の荒波をくぐり抜けてこられた「大すたあ」ですから。


「野蛮な手段だけが問題じゃあありません。ここに並ぶ本はみな、作り手が心を込めて作り、買い手がそれを楽しみに待つ本ばかり。本当にその本を愛する人に読んでもらいたい、そんな想いのこもった本ばかり。それを、横取りするようにして欲しがる者に高く売る。ほめられたものではないでしょう?」

「なるほど、そうですね」


 太郎がそう納得しかけた時、


「いえいえ、考えてもごらんなさい!」


 ラスボスとして現れながら、蚊帳かやの外に置かれ、すっかり忘れかけていたやらし屋が口を開きました。


「そんな貴重な本を読みたい、欲しいって方は日本中にいらっしゃいますよ。でもみんながみんな、祭りに参加できるわけじゃあない、違いますか?」

「それは確かにそうだね」


 太郎もその部分は認めます。


「あたしらはね、そういう方に確実にお届けするためにやってるんです。その時に、委託料、交通費、手間賃、その他を含めてちょっとばかりお代を高くいただく、それがそんなに悪いことでしょうかねえ?」

「そ、そうだなあ……」


 一瞬、太郎は言いくるめられそうになりましたが、


「いや、それでもやっぱり暴力はよくないよ。それにお役人にあんなことまで頼んで」

「いや、それは、まあ、なんというか、事の成り行きで……」


 やらし屋はもごもご言って口を閉じました。


「成り行きでも暴力はいけない」

「ですが、結果としてやられたのはこっちですし」


 言われて周囲を見渡すと、太郎の一撃とあまてらす様の一撃で、ひっくり返っているのは確かにあちら側ばかりという有様ありさまです。

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