第112話 VIP

 さて、本来ならばその日は「あまてらす様」や「うずめ様」のような「特別な方」しか入れないと聞いていたのですが、何しろ一番いい船をぽんとキャッシュ、しかも前金で支払ってしまったもので、一気に、


「びっぷ待遇」


 で、一足早く、今日のうちに鬼ヶ島へ渡れることになってしまいました。


「すごいすごいすごい!」

「さすが太郎さん!」

「ああ、お供してよかった!」


 太郎と3人娘は急いで荷物をまとめると、早速船に乗り込みました。


「あ、ちゃんと扮装はしてな」


 そう船長に言われたので、洗濯娘たちは例の犬、猿、雉の扮装に着替えたのですが、「びっぷ待遇」でこんないい船に悠々と乗り込めることになったからでしょうか、その格好を少しも恥ずかしくなさそうに、太郎の後から意気揚々と顔をまっすぐ上げ、立派なお供として乗船していました。

 太郎は扮装ではないのですが、扮装と判断されたのか、それとも「びっぷ」だったからか分かりませんが、普通に乗れました。


「島まではほんの一刻いっこくほどじゃけえのお」


 大体一時間で到着すると、船長が船べりで海を眺めている太郎たちに言いに来てくれました。


「あんたら、宿は押さえとんのか?」


 船長はさらにそう聞いてくれます。


「いえ、まさか今日のうちに渡れると思っていなかったので」

「ほんなら、うちの兄貴のやっとる宿紹介するけえ、そこに泊まりゃあええわ」

「助かります」


 と、鬼ヶ島での滞在場所も決まりました。


「しかしなあ、まさかうちの船、あげえにぽんと借り切る人がおるとは思わんかったわ。あんた、ぼっけえお大臣じゃなあ」

「いやあ、僕は単なる太郎です、大したことありません」


 船長のお世辞に太郎は頭をかきかきそう言います。

 なんにしろ、えらいお金持ちと認定されたようで、この先の鬼ヶ島行きも楽々になりそうな予感です。

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