第110話 こすちゅうむ

「だから、太郎さんのその扮装、とってもいいと思います」

「ええ、みんな素敵だって言うと思う」

「かっこいいよね」

「え?」


 太郎はそう言われてびっくりです。

 だって、太郎のこれは扮装ではなく、おじいさんとおばあさんが心を込めて準備してくれた「こすちゅうむ」なのですから。


「扮装って……」

「あら、違います?」

「ええ、てっきりそうかと」

「だって、鬼ヶ島に行くのに準備されてたから」


 いや、確かにそうなんですが、その時には何かの扮装をしなければ鬼ヶ島に入れない、なんて知らなかったし、なによりおじいさんとおばあさんは、太郎が「ひーろー」になる時の正装にと準備したのです、「扮装」、つまり、お化粧や衣装をつけて誰かになるための衣装ではないのです。


「いや……」


 違うよって言おうと思いながら、言われてみたら確かに普段の太郎とは違う衣装、おじいさんとおばあさんが考えた「ひーろー」の衣装なのですから、扮装でも構わないかなと思いました。


「まあ、いいか」


 これを着た自分はいつもの太郎とは違う、「ひーろー太郎」になればいいか。


「それで、明日の朝に船に乗ればいいんだね?」

「いえ、それは無理です」

「なんだって?」

「明日入れるのは一部の人だけです」

「そう、『あまてらす様』や『うずめ様』みたいな」

「へえ」

「あたしたちみたいのは明後日あさってです」


 太郎が家を追い出されたのがお盆の7日前、洗濯娘たちに会ったのは1日おいて5日前、


「ってことは、僕たちが鬼ヶ島に入れるのはお盆の3日前ってことになるんだね」

「はい、そうです」

「そして2日間、鬼の祭りがあるんです」

「さすがにみんな、お盆には家にいないといけないだろうから」


 なんだか分かりませんが、鬼というのはお盆は大事にしているようです。

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