第82話 本末転倒

「どうしたもんじゃろうのお……」


 おばあさんと違っておじいさんは困り果てていました。

 というか、おばあさんもそれ成功したからっていいってわけじゃないと思う、うん、そう思う。


「おじいさんおじいさん、見てください! 太郎のお弁当用の素敵なお団子が完成したんですよ!」


 嬉々として部屋に飛び込んでくるおばあさんを見て、ますますおじいさんは小さくなってしまいました。


「どうしたんですか」


 おばあさんは小さく固く丸く、まるで「アルファ団子」のようになってしまったかのようなおじいさんに、驚いて声をかけました。


「いや、おばあさんがそうやってがんばってるし、わしは太郎をなんとか説得しようと思ったんだが、だめじゃった……」

「あっ!」


 ちょい待ち!

 おばあさん、今の「あっ!」ってなんです?

 まさか、まさか、まさか……


「ごめんなさい」


 今度はおばあさんがベータ化。


「何がじゃ?」


 おばあさんはますますしょんぼりして丸くなります。


「いえね」

 

 なんか言いにくそう。


「あの」


 まだ言いにくそう。


「その」

 

 どうした。


「えっと」


 はよ言わんか!


「太郎を部屋から出さないといけないってこと、すっかり忘れてました!」


 やっぱりか!


 いやいや、ありますよ?

 たとえば、何かを取りに隣の部屋に行ったのに、違う何かに視線が行ってしまってそれを持って部屋を出てしまい、その後で「あっ!」ってなること、あるある。

 

 だけど、今回のそれは、そもそもは、


「太郎を今の状態から改善させて、鬼から宝物を取り戻して元の持ち主に返してひーろーにする」


 というのが本来の目的だったのに、いつの間にか、


「アルファ団子を作る」


 になってしまったしまったとしたら、それはあまりにも本末転倒すぎるでしょうが。


 ですがまあ、これでいつでも太郎が旅立つ準備はできたので、その点だけは評価しときましょうか。

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