第62話 あれやこれやどれや

 どのぐらいの時間、そうして座っていたでしょうか。

 気がつけば薪が全部燃え尽きて真っ白な灰になってしまってました。

 おじいさんとおばあさんは、自分たちも、そして太郎も真っ白な灰になってしまったような気持ちになりました。


「おじいさん」

「なんだい」

「一体どうしたら太郎を元気にしてあげられるんでしょうね」

「どうしたらいいのかなあ」


 何かを欲しい人ならそれをあげると元気になるかも知れません。

 ですが、何も欲しくない人には何をあげればいいのでしょう。


「とりあえず、なんでもいいから太郎が欲しいと思う物がないか探してみよう」

「ええ、そうですね」


 翌日からおじいさんはあっちこっちのいちへ行って、もしかしたら太郎が興味を持つのではないかと思う物を片っ端から買っては家に運び入れました。


 ですが、太郎はどれもちらりと見てそれだけです。


「面白いと思うものはどうだろう」


 評判になっている芸人たちを呼んでは太郎の前で演じさせますが、どれも太郎には興味がないようです。


「友だちはどうかな」


 太郎と同じぐらいの年齢、年上、年下、男女問わず色んな人を連れてきては合わせますが、話をしたいとも思わないみたいです。


 おいしいものもだめ、楽しい音楽もだめ、あれもだめ、これもだめ、それもだめ。


 おじいさんとおばあさんは途方にくれるばかりです。


 とうとう、お坊様に相談したり、神主様にお祓いをしてもらったり、挙げ句の果てには怪しい教祖様にお告げを聞いたりもしましたが、どれもこれも効果がありません。


「あれもこれもどれもだめ」


 結果を見ては、2人も太郎のように部屋の中でじっと座るばかりの日々が続きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る