第49話 下剋上

 おじいさんがおばあさんの目をみつめます。

 その中にはメラメラと炎が燃え上がっているのが見えました。


「本気なんじゃな……」

「ええ……」


 パチパチと薪が、太郎が折った薪が燃える音だけが静かな部屋に流れます。


「そうか、分かった……」


 おじいさんが目をつぶってこっくりとうなずきました。


「わしも一緒にやろう」

「えっ?」

「わしも、毎日山に入っていた頃よりは弱っていると思う」

「でもおじいさんは元々そんなに力はなかったじゃありませんか」


 ぐさっ!


 おばあさんがおじいさんを心配する言葉はおじいさんに刺さりました。


 おじいさんは若い頃からずっとずっと、自分がか弱いおばあさんを守っていると思っていたのです。それがあの日、おばあさんが太郎を襲おうとした狼をぶっとばした日におばあさんの怪力を知り、それどころか赤ん坊の太郎まで自分より強いと分かってすっかり自信をなくしてしまっていたのです。


(だけど、だけど、今ならもしかして……)


「い、いや、わしも一緒にやる!」

「おじいさん?」

「わしもおばあさんと一緒に川に行く、そしてわしも強くなる」

「大丈夫ですか?」


 またおばあさんの言葉が刺さるところでしたが、おじいさんを下に見るのではなく、本心から心配してくれていることが分かっているので、なんとか傷つかずに済みました。


「おばあさん1人より、わしも一緒に強くなった方が、太郎もやる気が出るんじゃないかと思う」

「おじいさん……」


 おばあさんはおじいさんの言葉に感激しているようです。


「そうじゃ、わしも強くなる」


 そして、できたらおばあさんより強くなりたい。

 おじいさんはちょっぴりそんな下心もありながらおばあさんと一緒に特訓、いや、洗濯をすると決めました。

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