第33話 太郎には心当たりがあった

 そうしておじいさんとおばあさんは家の周囲を開拓して畑を広げました。


「田んぼもできたらいいんだがなあ」


 田んぼは畑よりもうちょっと色々作るのが大変です。

 まず水を引いてこないといけないし、川からここまではちょっとばかり距離があります。


「水路を作れたらなあ」

「おじいさん、作ろうよ!」

「え?」


 おじいさんとおばあさんは太郎がそんなことを言い出したのでびっくりしました。


「この間おじいさんが買ってきてくれた書物にあったんだよ」


 太郎がそう言って持ってきた本は、


奪取DASH村開拓史」


 そんなタイトルがついていました。


「ある芸人集団が森や林を切り開いて村を作った時のお話なんだ、ためになるよ」


 太郎のそのアイデアで、おじいさんとおばあさんはまず水路を引くことに決めました。


 川から少し迂回して、カーブを作った水路で家の近くのこれから切り開く部分へ水を流す方法です。


「まず木の板でこんな形の箱を作って、それをつないだ水路を伸ばしてくるんだよ」

「ほうほう」


 太郎はとても賢くて力の強い子です。

 おじいさん、おばあさんと協力して、あっという間に水路を作り上げてしまいました。


「じゃあ流すよー」


 太郎がそう言って、いつも洗濯をしていたあの大岩の少し上に作った水路のゲートの板を上げ、堰き止めていた水を流すと、


「おお、水が来た!」


 家の近くに作った貯水池にどんどんと水が入ってきました。


「こうして貯めておくと水が温かくなるでしょう? それで田んぼを作れば稲がすくすくと育つんだって」

「へえ」

「この本を書いた『武蔵国TOKIO』という芸人たちは歌や踊りで人気者になったんだけど、今も日本国中に第三次産業の素晴らしさを説いて回ってるんだよ。知名度がある上に行動力もあるから、それでみんな耳を傾けてくれるんだね」

「ほう、それはすごいな」

「すごいですねえ」


 おじいさんとおばあさんは太郎もいつかそんな人気者になってほしいなと思いました。

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