第25話 一石二鳥

 おばあさんは洗濯かごを持って川岸に行くと、その中の一枚を取り出して川の水に濡らし、いつも洗濯をしている大きな石の上に広げました。


 そうしておいて、


「さ、太郎や、おいで」


 と、太郎を抱っこして石のところに行くと、


「さあて、立っちしようかね」

「きゃっきゃきゃっきゃ」


 太郎を洗濯物の上に立たせました。


 するとどうでしょう、太郎は洗濯物の上に立って太郎キックを繰り返します。


「おうおう、上手上手」

「きゃっきゃきゃっきゃ」

 

 おばあさんは自分が毎日洗濯物をばんばん叩いていて腕力がついたことを思い出したのです。


「太郎がこの運動を洗濯物の上でやってくれたら、洗濯はきれいになる、太郎も力がつく、一石二鳥」

「きゃっきゃきゃっきゃ」


 これまではおばあさんが洗濯をしている間、太郎は背負かごに入ってあたりを見渡したり、おばあさんを見たりしてじっと待っているだけでした。


「でもこれで太郎は強くなる。立てないから腕から訓練と思っていたけど、あのありがたいご本にも、人間の筋肉の大部分は下半身にあると書いてあった。こうして足腰を強くして、なあに腕は後からまた何か考えればいい」

「きゃっきゃきゃっきゃ」


 こうしておばあさんと太郎のタッグで全部の洗濯をきれいにして、それを持って家に帰りました。


「なるほど、それはいいことを思いついたもんだ」

「そうでしょお~」


 おばあさんは得意そうに胸を張り、


「だあああ!」

 

 太郎も得意そうにそう言います。


「ああ、そうそう、それでねおじいさん」


 おばあさんが申し訳無さそうにおじいさんにある物を見せました。


「最初に太郎が洗濯してくれたんですけどね、どのぐらいやればいいか分からなくてこんなことに……」

「ああっ、わしのふんどしがあ!」


 そこには踏みしめられてぼろぼろになったおじいさんの越中ふんどしが……


「きゃっきゃきゃっきゃ」


 それを見て、太郎だけが楽しそうに笑っていました。

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