第17話 太郎の力量

「昼間、強くギュッとしたのか?」

「よく覚えてませんが、多分……」

「ふうむ……」


 少し考えてからおじいさんが、


「なあ、おばあさんや。この子は、太郎は、今ではすっかり忘れてしまっていたが、とても不思議な子じゃ」

「そういえば」

「何しろあんな大きな桃の中から出てきた子じゃしな」

「そうでしたねえ」


 太郎がすくすくと育っているもので、おじいさんもおばあさんも出会いの時のことはすっかり忘れてしまっていたのでした。


「あの時の桃も、瓶詰めにした物以外は食べてしまったので忘れてしまってました」

「そうだったなあ。太郎のごはんにもなっていたしな」

 

 というか、


「桃から出てきたから桃太郎」


 というフルネームを普段からちゃんと呼んでいたら忘れなかったんじゃないか、という気もします。


「太郎があまりに普通の子なもんで、そんなことすっかり忘れてしまっていたなあ」


 思い出したのならこれからは桃太郎と呼びましょうか。


「本当に太郎はかわいいから、そんなこと忘れてしまっていましたよねえ」


 太郎呼びを続けている限り、この先も忘れそうな予感がします。


「それでだな」

「ええ」

「もしかしたら、太郎も強い子ではないのかと思ったわけだ」

「え?」

「太郎はおばあさんに思い切りギュッとされても負けないぐらい強い子なんじゃないのかな、と」

「えええええ!」

「試してみよう」


 おじいさんは驚いているおばあさんをそのままにして、さっきおばあさんに渡したのと同じような薪を太郎に握らせてみました。


「だあ」


 パキッ


 2本渡してみました。


「だああ」


 パキッ


 3本渡してみる。


「だあああ」

 

 パキッ


「全部折りおった……」

「太郎、恐ろしい子……」


 太郎も多分、おばあさんに負けないぐらい強い子の予感。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る