新説桃太郎

小椋夏己

第1話 おばあさんと桃の出会い

 ある日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行っていたら、川上からどんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れてきました。


「おやおや、これは大きな桃だこと」


 おばあさん、と言っても、毎日家事に農作業にその他にと一日忙しく立ち働き、今も大きな岩の上でばしんばしんと叩きながら洗濯をしていたおばあさん、足腰は丈夫です。


 ざばっと川に飛び込むと、


「ふんぬ!」


 大きな桃に立ちはだかり、がっし! とつかむとあっという間に大きな大きな桃を川岸に運び上げてしまいました。


「やれやれ、重かった」

 

 おばあさんはふうっと一息吐き、着物の袖で汗を拭くと、洗濯の残りをとっととやってしまい、絞ってカゴに入れて背中にしょって桃もついでにカゴの上にのっけて背負いました。


「なんのこれしき!」


 めちゃくちゃ大きな桃です。

 人間一人分ぐらいの重さはあるかもという桃です。

 ですが、おばあさんは負けません。


 多少ふらふらしながらですが、カゴの痕がつかないように洗濯物を広げた上に桃を乗せ、落とさないように気をつけて気をつけておじいさんと暮らす家まで無事に運んで帰りました。


「よっこいしょっと」


 おばあさんは桃をそっとそっと台所の上りがまちに置き、洗ってきた洗濯物を干しに外に出ました。物干し竿にさっさと洗濯を干し終わり、家に入って桃と並んで腰を下ろしてどっこらしょ。


「はあ、疲れた疲れた」


 いつもより用事が増えたおかげで疲れました。

 ですが、並んでいる大きな大きな桃を見ると、自然に笑みが浮かびます。


「やれやれ、おかげで今晩のデザートができました、と」


 にっこりしながら、産毛のある桃の表面をやさしく撫でて、


「おじいさん、早く帰ってこないかねえ」


 そう言ってから、


「さて、一休みしたら今度は晩ご飯の支度だね。やれやれ、主婦は忙しいったら」


 立ち上がり、台所でご飯の支度を始めました。


 本当によく働くおばあさんです。

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