第5話 決着、アーノルド対ゴンチチ!
神が「右」と「左」と言う概念を作ったもんだから、人間は二つの乳首を持って生まれる事となった。
それが全ての悲劇の始まり、戦乱の世の開幕だ。
みんなが見守る中、アーノルドとゴンチチの決勝戦が始まる。
アーノルドはこの試合に負ければ、アンジェラとの付き合いがなくなる上に、負けたら確実にバルブを破壊されるので、二度と乳首相撲はできなくなる。
負けは許されない。
「ちく、せっ!」
行事のその声にアーノルドはリングの中央に歩き、カブトムシのピカチュウを乳首にセットした。頼むぞ、ピカチュウ。負けたら握り潰すからな。
「ん?」
その時、アーノルドはゴンチチが乳首につけているものに驚愕した。
「あれは!」
ゴンチチが乳首につけているのは、この前のコーカサスオオカブトではない。マグロだ!
ゴンチチは乳首にコーカサスオオカブトではなくマグロをつけている。
「そうか、それでみんなのバルブが弾け飛んだのか!」
アーノルドは合点がいった。
さっきゴンチチからダーク乳首を見せられて驚いたが、実際、乳首をダーク乳首に変えたからって、別に乳首相撲が強くなるわけでは無いのだ。
しかし、コーカサスオオカブトで引っ張っていたはずの相棒がマグロに変わっていたら、これは全然話が違うのだ。
そりゃ、全員乳首のバルブを壊されますわ、とアーノルドは合点がいったのだ。
「ふっふっふ、このダーク乳首になった俺に敵うと思っているのか、アーノルド!」
ゴンチチはあくまでも強くなったのはダーク乳首に変えたからだと言い張り、相棒を本マグロに変えたことには一切触れてこない。
クソ野郎であった。
「ゴンチチ先輩! あなた、ダーク乳首以外に言うことがあるだろ!」
「なんだ? 見えないのか、お前にはこの漆黒に渦巻く俺のダーク乳首が」
と、ゴンチチは指差すが、ピチピチと動き回っているマグロのせいで、右も左もあいにく見えなかった。
「テメェ、マグロつけてんじゃねぇよ!」
「何を訳の分からんことを言っている。お前も俺のダーク乳首のシミにしてやるわ!」
コイツにはマグロが見えてないのか?
あんな目の前でピチピチしているのに、そもそも乳首を激烈に噛まれているのに、なんでマグロには一切ふれないんだ、こいつ。
しかし、その後、アーノルドがピカチュウに結んだ紐を渡すと、ゴンチチはマグロの尻尾のところに紐を結んでいた。
見えてんじゃねぇかよ。
ゴンチチは「おい、動くな」とピチピチと暴れるマグロに注意している。
あくまでもパワーアップしたのは、マグロではなくダーク乳首のお陰だと言い張るんだな。
クソ野郎だな。
勝ってもコイツがお兄ちゃんになると思うと、テンションが下がるぜ!
行司が土俵の真ん中で軍配を構えた。
「見合って見あって」
行司に言われ、アーノルドとゴンチチが土俵の中央で見合う。
「キスをして」
行司に言われ、キスをする二人。くそっ、マグロが邪魔だ。
「別れて」
ビンタをするアーノルドとゴンチチ。
「残ったぁ!」
行事の言葉で試合が始まった。
これはいい行事だとアーノルドとゴンチチは思った。
分かっている。
キスをして一度愛し合い、別れてフラットでドライな関係に戻ることで、初めて本気で戦えるのだ。
こう言う男に少女漫画を描いてもらいたい。
「ぐあああああ!」
と、思っている間に、アーノルドの乳首がもう緊急事態!
カブトムシも虫界では力持ちであるが、200キロある本マグロの前ではあまりに無力。
ピカチュウは必死でアーノルドの乳首にしがみ付き、離されまいと耐えている。
チョロQとF1がレースしている様なものだ。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
カブトムシの足が乳首に食い込み、ものすごく痛いアーノルド。
「アーノルド、頑張って!」
アンジェラの声援が飛ぶ。
「くそ、アンジェラのやつ! こんな男を応援しやがって!
そのせいで、ゴンチチの怒りに拍車がかかり、乳首を引っ張る力が余計に上がる。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「アーノルド、頑張って」
ゴンチチ、余計に怒る。
マグロの力が上がる。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「アーノルド、頑張って」
ゴンチチ、怒る。
マグロ、パワーアップ。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
「アーノルド、がんばっ……」
「テメェ、黙ってろ、ブス!」
あまりの痛さに、アンジェラに向けて毒が出てしまうアーノルド。
ピカチュウ → 乳首が痛い。の負のサイクルがアーノルドを襲い、アーノルドの体力は一気減った。
しかし、それはアンジェラの愛による失点である。
「ふっふっふ、俺のダーク乳首の前に、もはやお前は無力だ。覚悟しろ、アーノルド!」
この後に及んで、本マグロの力を認めないゴンチチ。
だめだ、勝てない。
アーノルドは初めてその時、敗北を覚悟した。
──アーノルド、頑張って──
その時、アーノルドの耳にどからともなく声がした。
カブトムシの声だ。
見ると、ピカチュウが必死で乳首にしがみついて頑張っている。そのせいでアーノルドのバルブが今にも弾け飛びそうだ。
ここでバルブが弾け飛んだら、もう乳首相撲はできない。プロになれない。
ピカチュウ、すまん。俺には未来がある。
アーノルドの手がピカチュウに伸びた、その時だった。
──アーノルド、僕はどうなっても良いから、バルブを守るんだ──
ピカチュウ、お前……
その時、アーノルドの脳裏にピカチュウとの楽しい思い出が蘇った。
「ピカチュウ、お前……俺のために自分を犠牲にしようとして!」
──そのつもりだったんだけど、アーノルド、ごめん、足が乳首に引っかかって取れないんだ──
何っ!
アーノルドがよく見ると乳首のバルブと皮膚の間にピカチュウの足が挟まっている。
「何やってんだ、バカ! お前のせいで俺の人生は終わりだぞ!」
──ごめん──
「謝って済むか! クソ野郎!」
──ごめん──
「謝ってねぇで、なんとかしろよ、結果を出せ、結果を! 無能の虫が!」
──その代わり僕の力をアーノルドにあげるよ──
「え? ピカチュウ」
そう言ってピカチュウは急に光出した。
そして、そのままアーノルドの乳首と同化していく。
「なんだ、この力は力がみなぎってくるぞ!」
アーノルドはピカチュウと合体したこと、カブトムシの能力を手に入れたのだ。
カブトムシは自分よりも二十倍重いものでも持ち上げられる力を持っている。
その力によって、アーノルドは本マグロでも余裕で持ち上げる力を手に入れたのだ。
「な、なんだ! 急に押され始めているぞ!」
ゴンチチの乳首が急に引っ張られ始めた。
そう、本マグロの重さは300キロ。そしてアーノルドの体重は15キロである為、二十倍の重さの本マグロでも物ともしないのだ!
ちなみに小学一年生の平均体重が20キロである。
「ぐわあああああ!」
──アーノルド、いけるよ!──
「ああ、これが俺たちの力だぁ!」
アーノルドはこのチャンスを逃すまいと、一気に乳首を引っ張った。
ザゴルゴーン!
その力でゴンチチと本マグロ、そしてダーク乳首のバルブが一気に弾け飛んだ!
「勝者! アーノルド!」
行司がアーノルドに軍配を上げ、勝利を宣言した!
「やった! アーノルドが勝った! 優勝だ!」
試合に勝ったアーノルドに部員たちが駆け寄ってくる。
「く、くそ! アーノルドめ! これで終わりだと思うなよ!」
「待て、ゴンチチ!」
「なんだ!」
「負けてバルブが弾け飛んだんだ。乳首茶を飲ませてもらうぞ」
「ぐっ!」
そして、アーノルドはゴンチチの乳首茶をコップに注ぎ、飲んだ。
「美味しい」
思わず声が漏れるアーノルド。
ゴンチチのダーク乳首から湧き出てきた新鮮なお茶だ。美味しいに決まっている。
「こんな、あったかい体をしていたんですね……お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん、だと」
上目遣いでゴンチチにそう言ったアーノルドの顔を見て──その一言で、ゴンチチの頭に新たな銀河が生まれた。
「俺、あったいお兄ちゃんがずっと欲しかったんです。ゴンチチお兄ちゃんって呼んで良いですか?」
アーノルド……
こいつ、生意気な高校生乳首レスラーだと思っていたが、プリンみたいに可愛いじゃないか。
「お、俺で、よかったら」
ゴンチチは顔を赤らめ、そう言っていた。コイツぅ。
「やったわ、アーノルド!」
「アンジェラ!」
アーノルドとアンジェラは土俵のうえで抱き合った。これで家族公認のカップル成立だ。
「愛してるわ、アーノルド」
「僕もだよ、ゴンチチ。あ、間違えた、アンジェラ」
「まぁ、アーノルドったら」
笑い合うアーノルドとアンジェラ。
「よーし! アーノルドを胴上げだ!」
ゴンチチの一言で、会場にいた全員がアーノルドを胴上げした。
セーックス! セーっくす! セーっくす!
それはアーノルドにとって、人生最高の日であった。
しかし、それからアーノルドとアンジェラは交際を始め、三ヶ月後に急に冷めて、別れたという。
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