第56話 王宮最後の夜3

優雅にお茶を飲みながら、あの時のことを初めてエレオノーラに話し始めた。




「実はね、父以外に、本当は正当な王位継承者がいた、という話を聞いてね、確かめるために行ったのよ」




言いづらそうに、アンナマリーはカップを置いて、静かに考え込むような仕草をした。




(正式な王位継承者?)




アンナマリーの言い方だと、現在の国王陛下は正当な王位継承者ではないということになる。




「何故ですか?国王陛下がいらっしゃいますよね」




「そうね、父が即位したわ。それは、たぶん正式なものではなかった」




「じゃあ、正式な継承者とは?」




「先王には、父、叔父のほかに、もう一人子供がいたのよ。本当は、その方が国王になるはずだ


ったけれど、なぜか国王にはなっていない。その方は、立太子まではしているはずなの」




「詳しいですね」




「王室名簿をみたの。名前が消されていたわ。削られるようにね。筆跡も見えなかった」




「偶然、その方に仕えていたという、侍女がローゼンダールにいると聞いて、話がどうしても聞きたくなって行ったの」




「それで、あの日、雪の中をローゼンダールまでいかれたのですね」




「でも、ご高齢でね、あまり聞けなかったけど、仕えていた主人と一緒にローゼンダールに逃げて来たと言っていたわ」




「逃げて来た?何があったのでしょう?」




「そこまでは、わからなかった。王位継承争いが水面下であったことが聞いているけど、はっきりしたことを誰も私には話さない。当時何があって、どうなっているのか。でも、たぶん……その時、フラワーエメラルドは紛失している」




「その、王位継承者が持ち去った可能性があるわけですね」




「そうじゃないかと思って、秘密裏に探っていたの。その時、あなたを轢いてしまった」


申し訳なさそうにうなだれたアンナマリーにエレオノーラは優しいまなざしを向けた。




「アンナマリー様に拾われて幸運でした。この国で、生きていく道を作ってくださったのですから。あのままローゼンダールにいたら、飢えて死んでいたかもしれません」




「そう、あなたがそう言ってくれるなら、気持ちが軽くなるわ」


申し訳なさそうに、アンナマリーは微笑んだ後で、こう続けた。




「私は、どうしても正当な王位継承者として即位したいの。そして、この国を平和に導きたい。そのためには、どうしても、どうしてもフラワーエメラルドが必要なのよ……!」


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